後発商品は“半歩先”のコンセプト開発で勝負せよ──JTヒットプロデューサーの逆転戦略
Sponsored「なぜ、ノンアルコールビールで後発の『アサヒ・ドライゼロ』がカテゴリーNo.1を達成できたのか?この問いに、JTが加熱式たばこで起こそうとする変化のヒントが隠れています」
社運を握るRRP(Reduced-Risk Products:加熱式たばこなどのリスク低減製品)事業で、2019年から商品企画部RRP統括 担当部長を務める高橋徹氏にその戦略を問うと、こんな言葉が返ってきた。
広告代理店とメーカーを往復しながら得た知見を武器に、日本たばこ産業(以下、JT)のRRP商品開発を推進している人物だ。飄々とした語り口ながら、「ブランド」や「マーケティング」に話が及ぶと、取材陣を圧倒するほどの情報量と熱量で、ロジカルにその可能性を語る。
「私の持論ですが、2歩、3歩未来を先取りした商品は売れにくい。顕在化されているお客様ニーズを理解した上で、その半歩先の潜在的なニーズを発見し、その2つを融合させながらコンセプト化していくことが重要です」。
後発で新しく投入した加熱式たばこブランド『Ploom(プルーム)』。まったくブランデッド(提供価値の定義づけ)されていない状態からどのように勝負をかけていったのか。「どちらを向いてどの角度でコンセプト開発すべきか、とても悩みました」と振り返りつつも、強く見据える“勝ち筋”を聞いた。
- TEXT BY HARUKA MUKAI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
知名度ゼロのRRPで、奮闘する一人のキャリア入社社員
2018年。JTはRRPのマーケットで大幅に遅れをとっていた。
紙巻きたばこで実績を残し、異動でRRPに携わることになった高橋氏は、「当時の『Ploom』は、競合に比べ知名度がとても低い状態でした」と振り返る。
高橋そもそも新ブランドである『Ploom』は、JTの主力商品である紙巻きたばこの『メビウス』や『セブンスター』などとは全く異なり、まだブランデッドされた商品ではありませんでした。だからまずは、『Ploom』というブランドを定義しなければいけない段階でした。
しっかりとブランデッドさせなければ、次のプロポジションに向けてブランディング(ブランドの浸透や価値強化)することはできません。長く愛される商品を世に出すためには、きちんとこの順序を踏む必要があります。
しかし、JTは新ブランドを立ち上げたり競合から遅れをとったりしている状態からの戦いに慣れていません。僕自身、これまでのJTでの知識や考え方を捨て、学び直さなければいけないと危機感を持ちました。
まずは、RRPの市場全体を客観的に見渡し、これまで取り組んで来た『Ploom』の商品開発の考え方を変える。競合に追いつくために、既存のやり方では不十分だという確信があった。
高橋僕の経験上、多くのヒット商品は顕在化したお客様ニーズの“半歩先”で生まれます。顕在化したニーズから遠すぎても理解されないし、近すぎても退屈で目を引かない。
例えば、整髪料ならムースやジェルといった支持されている定番商品があって、そこからワックスやヘアミストなど新しい商品が出てきました。後続の商品は 定番の価値がベースになっていますが、半歩くらい先を行く新しい価値がある。「整髪が出来ることを前提に、ジェルよりも自然なセットが長持ちする」とかですね。また、その際に新しいヘアスタイルの提案も併せて行います。そういった商品であればお客様側からもどういうものなのか想像でき、興味も持ちやすくなります。
一方でRRPは、それ自体がお客様にとっては新たなカテゴリの商品です。それにもかかわらず、特にリフィルにおいては、たばこ市場で顕在化している嗜好ニーズの2つか3つ跳ばした開発と投入をしていたと思います。
RRPにおける“半歩先”とはなにか。その解を高橋氏は紙巻きたばこに求めた。紙巻きたばこは、たばこ葉本来の味わいから、メンソールの強さ、香料を用いたフルーツフレーバーと、数十年かけて顧客の嗜好は変化を遂げてきた。この嗜好変遷の流れはRRPでも変わらないのではないかと踏んだ。
後発でいきなりたばこ市場で顕在化されているニーズの2、3歩先を進んだ商品を出しても顧客は定着しにくく、シェア奪還が進まないと考え、紙巻きたばこの嗜好変遷ステップを考慮した商品開発にシフトチェンジしたのだ。
高橋最近はRRPが紙巻きたばこの代替として受け入れられ始めています。それを考えると、紙巻きたばこに対するお客様の嗜好変化と同じような変遷をたどる。であれば、第一に取り組むべき“半歩先”はたばこ葉本来の味わい、メンソールの強さ、紙巻きたばこで顕在化されたフルーツフレーバーを追求したものになると考え、商品ラインナップの刷新を判断しました。
この判断を、低温加熱式『Ploom TECH+』と高温加熱式『Ploom S』いずれについても取り入れ、新商品投入プランと新ポートフォリオへの変更を進めた。
事業会社と広告代理店の往復で磨いた方法論
確かに納得感のある方向転換だ。とはいえ、こうしたドラスティックな変化を大企業で起こすのは容易ではない。しかもここはJT、国内のたばこ市場を強く牽引してきた歴史を持つ。そんな中でも埋もれることなく、むしろ先頭に立ってこれらの施策を推し進めてきた。
それだけの推進力や説得力が、高橋氏にはあったのだ。2011年にJTへ入社するまで、数年ごとに広告代理店や事業会社を行き来しながら、マーケティングと商品企画の経験を、“深さ”と“幅”の双方を意識しながら積み重ねてきた。
高橋広告代理店で「複数の業界を見て視野を広げる」と事業会社で「一つの業界を深く知る」のサイクルを意識し、キャリアを積んできたんです。
きっかけは、新卒で入社した広告代理店でのことです。 マーケティングの経験を積みながら、様々な業界の事例を応用し成果を出そうと努力していたのですが、あるとき「商品を広告で無理やり売ること」が存在することに、疑問を持ったんです。
もちろん、広告にできることもたくさんある。ただ、そもそもの商品コンセプトが優れていなければ広告でできることは限られます。商品側に携わるスキルや経験を身につければ、よりクライアントに価値ある提案や支援をできると考え、事業会社の経験を掛け合わせようとしたのです。
その後、食品メーカーでの商品企画部、飲料メーカーで宣伝部を歴任する。事業会社内でマーケティング施策を一気通貫で経験した。
高橋食品メーカーでは著名な外部コンテンツとのコラボ商品を6件ほど手がけました。そして、次の飲料メーカーで担当したのは宣伝です。当時としては革新的な、SNSを通したお客様との継続的なコミュニケーションを設計しました。
ブログやmixiが出始めた頃ですから、SNSという言葉もあまり知られていませんでした。かなり挑戦的な状況でしたね。ただ、この企画はSNSを活用したコミュニケーションの先駆けとして、業界誌などでも取り上げていただくなど、業界で注目を集めた先進事例になりました。
事業会社でのマーケティング施策で成果が見え始めると、高橋氏は徐々にこの経験や手法を他の業界に当てはめてみたくなった。そこで、再び広告代理店へと身を移す。
高橋事業会社でのマーケティング経験から、広告戦略だけではなく、新商品コンセプトの提案などに関わる案件が増えていきました。クライアントにもよりますし、僕自身のバックグラウンドも関係しているとは思いますが、広告代理店のストラテジック部門に求められる役割も変わってきていたのだと感じていました。
「情緒で売るのがたばこ。面白いマーケティングができそうだ 」
深く一つの業界に携わる時期、広く多様な業界に携わる時期。両者を行き来しマーケティングの専門性を高めた高橋氏の元には、転職の誘いが来ることも珍しくなかった。その中で、たばこ業界を選んだ理由はどこにあったのだろうか。
高橋たまたま飲み友達にJTの社員がいて、彼の仕事の話を聞く機会があったんです。正直、縮小産業だし、“積極的にマーケティングをしなくても定番商品は売れ続けていく” 業界だと思っていましたから、自分にとっては面白くない領域だろうと想像していました。
でも、詳しく聞いてみると、たしかに国内市場は縮小しているが、海外事業の比率が年々上がり、経営状態は非常によい。イメージしているような堅い雰囲気でもないらしく、むしろ、余裕があって良い会社なんじゃないか?と興味がわいたんです。
そこで「たばこ」という商材の特徴を見つめ直す。すると、魅力的な事実に気がついた。
高橋購買行動にまつわるデータを見ると、たばこって他商材と比較して最も情緒的に買われているもののひとつなんです。お客様は愛着を持ってそれぞれのブランドを選択して購入しているということです。
あるお店で自分がいつも吸う銘柄がないとき、「同じような味やタール値なら違う銘柄で良いや」とはなりにくく、別のお店まで買いに行く人が多い。
機能性をメインに選ばれる商品なら、機能の開発に重きを置けば良い。一方、たばこは情緒で選ばれやすい商品なので、新商品コンセプトだけでなくコミュニケーションコンセプトの開発も重視すべきなんです。
つまり、マーケティングが成果に寄与できる範囲が広い。たばこは面白いマーケティングができる商品だと気づいたんです。友人の後押しもあり、JTへの転職を決めました。
TOEIC400点で突然の海外出向。“実験”とも言わしめた挑戦
JTで高橋氏を待ち受けていたのは、思いもしない裁量だった。
入社直後にまず任されたのは、主力商品である『マイルドセブン(現:メビウス)』のメンソール商品のブランドマネージャー。社にとって重要な商品だ。メビウスへとブランド名を変えるのに併せ、商品ラインナップも刷新することになった。
高橋上司は別として、担当は僕とメンバーが一人だけのプロジェクトでした。主力ブランドの大きな変化のタイミング。中途入社でも、こんなに大きな仕事を任せてくれるんだなと驚きました。
同時に驚いたのは、社内のどんな人でも、熱意をもってロジカルに説明すればチャレンジする姿勢を尊重してくれることです。もちろん成果に対する責任もセットですが、それがある限り、やりたいことができる可能性が高い。外から入った身としては、正直意外でした。
「チャレンジを尊重する文化」を実感する出来事が、高橋氏にはあった。海外事業を統括する子会社「JTインターナショナル(以下、JTI)」スイス・ジュネーブ本社への出向だ。
高橋JT入社時に受けたTOEICは400点。上司に「なぜ、私なんですか?」と聞いたら「我々も実験のつもり(笑)」と冗談で言われるくらいに無茶な話でした。
ジュネーブに到着してすぐ、JTIの上司から英語で「住む家は決まった?何軒見た?」と聞かれて「YES!」と5回答えたくらい。その会話のあと、彼はチームメンバーに「やばいやつが来るぞー」と言っていたそうです(笑)。
ただ彼はとても良くしてくれて、様々な場面で「気にせずチャレンジすればいい」といつも後押ししてくれました。そのおかげで「英語ができなくても、自らの手でコンセプト開発や企画なら練ることができる」と考えるようになり、アジア市場向けのメンソール商品開発プロジェクトの企画・実施に至りました。
帰国の打診があったときに「まだJTIに残らないか?」と声をかけてもらえたので、一定の成果は出せたのかなと思っています。
周回遅れのRRP市場での逆転シナリオ
こうした挑戦できる環境を最大限に活かしたのが、2018年から担当したRRP事業だったのだ。
とはいえ、RRPは従来の紙巻きたばことはまったく異なるプロダクト。方針を掲げるだけではなく、それをいかに“実装”していくかにも大きな壁があった。
高橋これまで紙巻きたばこを開発・製造していた会社が電子デバイスも開発・製造するわけですから、そりゃみんな大変ですよ(笑)。
部品をどこから調達するのか、組み立てる工場をどこにするか、製造するデバイスの品質保証や品質管理はどうすればいいのか。全部イチから決めないといけない。こんなこと、ほとんどみんなやったことないですからね。会議も一気に増えていきました。
現在は当時に比べて、商品企画部も他の部署も知見を深め、少数精鋭でスピーディーに開発を進めているという。言わば、クリエイティブカオスを経験しながら、急成長へ向かうスタートアップのような状態かもしれない。
基礎こそ固まったが、本当の挑戦はここから。商品の優位性もブランドの知名度も低い状態から、スタートラインに立ったにすぎない。高橋氏も状況をドライに捉えながら、勝ち筋は見据えている。
高橋近い未来、デバイスの機能的技術は、様々な業界でみられるように、ある程度コモディティ化していくと思います。機能的優位性では勝負しにくくなっていきます。
その時こそ、長年培ってきたJTの得意分野「日本人の嗜好にあわせた“味と香りの開発”」と、JTの先輩方に育ててきていただいた「紙巻きたばこの主力ブランド活用」を活かせる。これらを武器に、RRPでも競合を打ち負かすチャンスが訪れる。
これこそがJTの勝ち筋だと考えています。後発ながらノンアルコールビールカテゴリーでシェアNo.1の『アサヒ・ドライゼロ』と同じストーリーです。
『キリン・フリー』が先行者としてノンアルコールビールカテゴリーを拡大させ、その後『サントリー・オールフリー』が更に機能性を強化して市場規模は伸長した。そうしてノンアルコールビールを開発・製造する技術がある程度出揃って平坦化するころには、顧客側が先行者の機能優位性をそれほど気にしなくなる。
その後、アサヒビールが市場に本格進出。従来のビール業界でNo.1商品だった『スーパードライ』の傘のもとに投入したのが『ドライゼロ』だ。味や香り、コミュニケーションコンセプトにおいて、『スーパードライ』が浸透させてきた文化を活用することで、現在ではカテゴリーシェアNo.1になっている。
高橋 諸先輩方から沢山の資産を受け継いでいるJTだからこそ、同じような逆転劇を加熱式たばこ業界でも再現したい。出遅れているのは重々承知しています。だからこそ、逆転のために粛々と未来への仕込みを続ける。長期戦は覚悟していますが、負ける気はしていませんね。
こちらの記事は2020年07月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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藤田 慎一郎
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
校閲
佐々木 将史
1983年生まれ。保育・幼児教育の出版社に10年勤め、’17に滋賀へ移住。フリーの編集者、Webマーケターとして活動を開始。保育・福祉をベースにしつつ、さまざまな領域での情報発信や、社会の課題を解決するためのテクノロジーの導入に取り組んでいる。関心のあるキーワードは、PR(Public Relations)、ストーリーテリング、家族。
特別連載SENSE MAKER 変革期のたばこ産業、未来の嗜好品のかたち
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