連載スタートアップ的メディア論考

ウェブメディアのマネタイズ必勝法って?
メディアミートアップVol.2レポート

8月24日、朝日新聞メディアラボにて、「メディアのマネタイズ」を議論するミートアップが開催された。

進行役を務めるのは、アジャイルメディア・ネットワーク取締役CMO、徳力基彦氏。

彼の呼びかけで集結したのは、朝日新聞運営『withnews』編集長の奥山晶二郎氏および編集プロダクション・ノオト代表の宮脇淳氏。

未だ答えがないテーマだが、さてどのような議論が繰り広げられたのか。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO

徳力奥山さんはもともとデジタルに興味があったんですか?

奥山パソコン、ガジェット系には興味がありましたね。僕は2000年入社で、佐賀や山口、福岡に勤務していたんですけど、社内でデジタル部門の公募がおこなわれた際に応募して東京本社デジタル部門に移りました。

その後、2011年には朝日新聞デジタルが創刊されるんですけど、今でいうLINEチャンネルがこれに近くて、「デジタルの中で新聞の誌面をどう表現するか」を形にしてたんですけど、ちょっと早すぎた感がありました。今思えば当時のデジタル部門って社内ベンチャーみたいなとこで、予算も権力も何もないけど自由だけはありました。

奥山晶二郎氏

徳力2011年頃ってあまりそういうデザインってなかったですよね。

奥山そうなんですよね。その後、新聞の折り込みチラシの変遷をデジタル上で見せたりといろんな新しい方向性を模索したんですけど、ヤフーなりグノシーなりのプラットフォームでの見られ方を意識しないといけない、今までのやり方を変えないといけないということで、withnewsという新しい飛び地を作るに至りました。

withnewsでは、「媒体の顔になるような記事作り」を意識して、「中国人から見た日本」みたいなシリーズを連載したり、ツイッターでバズってた作家さんに「30秒で泣ける漫画」を描いてもらったりしてます。

ネット転売、法的に問題ないの? 〝30秒で泣ける漫画〟の作者が描く - withnews(ウィズニュース)

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徳力宮脇さんはフリーランスを経験した後、有限会社ノオトを設立されてますね。

宮脇1回目に創刊された時のワイアードなどを経てフリーライターになりました。フリーってすごいがんばってても天井があって(年収)600万くらいなんで、それなら会社作ったほうがいいだろうと設立したのが2004年です。

そこからは、会社設立前から関わってたR25をはじめとするウェブ媒体のコンテンツを作成してきたんですけど、やりながら、仕事には、「お金を稼げる仕事」と「入ってくるお金はイマイチだけど、やってておもしろくて役に立つ仕事」の2種類あるなと思ってたんですよ。

宮脇淳氏

でもそのうち、「お金もらえるけどつまんない」ってことに腹立ってきて、そういう仕事は一切やらなくなりました。

徳力ノオトでは、コワーキングスペースとその分室であるコワーキングスナックの運用もしてるんですよね。

宮脇コワーキングスペースは、お金取って儲けるためじゃなくて、パートナーとして仕事できる人に出会うために運営してるんです。スナックのほうでは、メディア関係者だとかメーカーの人が飲みに来てるので話しながら交流を深められますし、ママやチーママはみんなライターだからインタビューの練習にもなるんですよ。

あと、コワーキングスペースでは月1ペースでライター交流会をやってるんですけど、今年2月に試しに「一都三県の人以外は参加費無料」で開催したところ、一都三県外の参加者が30人にものぼったんです。

これを受けて4月からは地方で交流会開くようになったんですけど、つながりを作ることで、お金にはならないけどお金以上の価値が生まれてることを実感してます。

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読者は記事の内容にお金を払っているわけではない?

徳力では、どこでお金を稼いだらいいのかという話に入りますが、メディアのマネタイズってざっくり分類して、「ユーザーからお金をもらう」「企業からお金をもらう」「その他の第三者からお金をもらう」の3パターンですよね。

宮脇ネットメディアだと企業からのパターンがほとんどですね。

徳力基本的に、ユーザーからお金をもらうことは諦めてますよね。あと、課金しようと思ったら狭いメディアのほうがいいと思うんですよ。日経電子版には月額4000円払うのに、朝日は500円でしょ?ビジネスマンは出世のために4000円払ってるみたいなもんじゃないでしょうか?

奥山ジェフ・ジャービス(ニューヨーク市立大学大学院ジャーナリズム学科教授)さんが「サービスという視点でメディアを考えるべき」とおっしゃってますが、日経で言うと、真面目なサラリーマンにとって、購読しているということが一つの安心感になるんでしょうね。

いうなれば、コンテンツそのもので勝負していない強さがあるというか。コンテンツ単体にお金を払うとしたら、命に関わること、病気、お金、性、アダルトとか以外では難しい気がしていて。

「サービス」と「新聞社」の関係性を今一度考えなきゃいけないと思ってるんです。明日の朝刊に何が載るかわかんないのにお金を払ってるってなると、内容にお金を払ってるということではないですからね。

徳力新聞記者は記事自体に価値があると思ってたけど、実が違うんじゃないかってことですよね。

奥山ジェフさんが「マスは死んだ」っておっしゃってたのが非常におもしろいなと思うんですよ。

宮脇じゃあメディアの定義って何?ってなりますよね。お金を払うポイントが人によって違うんだな、って。そうなるとどこまでがメディアなのかなと思いますよね。

たとえば釣りが好きな人は「今日はどこどこでよく釣れる」という情報にめっちゃお金払うと思うんですよ。有料で「●●釣り新聞 近畿版」とかあったらずっと購読しそうじゃないですか。

徳力サーファーにとっての波情報みたいなもんですね。

宮脇かなり狭いとこ狙うといけるんだと思うんですよ。実は釣り船とかのほうがメディア化したら金取れるんじゃないか、って。

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世間の注目度が高い媒体には独自の工夫や特徴がある

徳力そういう意味で今注目してるメディアってあります?

宮脇ホリエモンのメルマガとか、ネームバリューがあるからちゃんとファンがいますよね。

徳力個人メルマガは強いですよね。あと文春さんの都度課金もうまくいってるなと思います。

奥山ごたごたする前のメリーさんはおもしろかったですね。ウェブのほうでは靴ひもの結び方とかまでの細かい情報を載せてるのに、雑誌ではハウツーは載せずに写真だけ出して、メリーらしさは保ってる。

宮脇メディアが先なのかコミュニティーが先なのか、ってところもありますね。好きなプロ野球球団のファンクラブに入ると定期購読雑誌が届いたりするけど、定期的なものでお金をとるのか、ほぼ日みたいに単体で売るのかっていう。あと、「北欧、暮らしの道具店」は本当にコアなファンがいてすごい。

徳力書いてる人を「編集長」って呼ばずに「店長」って呼んでますよね。なんでかっていうと、そうするとステマにならないから。店長は自分の店のものすすめるのが仕事だから売り込んで当然ですもんね。メディアととらえるかECととらえるかは人によって違うだろうけど。

右:徳力基彦氏

宮脇投げ銭ができるYouTubeのスーパーチャットもありますね。

奥山コンテンツに課金できることの一つの特徴に「体験型であること」があって、「投げ銭」って表現がもうちょっとスマートになってくると思ってるんですけど、たとえば画面の向こうにピアニストがいて、お題を与えたらその通りに弾いてくれるとかってなると、払っちゃうと思いますよ。

徳力「取材に行くよ」ってことに対して投げ銭されたらおもしろいですよね。

宮脇「探偵ナイトスクープ」とかやればいいのに。

徳力ある意味、YouTuberとかそうですよね。みんなが思うように動いてるから投稿された動画観ちゃうし。

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いかにクリック数を増やすかしか考えない人が増えてきた

徳力一方で、企業からお金をもらう場合、媒体ごとの広告と、媒体(のカラー)関係なしに出てくる広告がありますよね。本来は絞られてるから価値があったのに、アドネットワークだと、「大勢が見てるメディアのほうが儲かるにきまってる」ってだけで読者層に合わない広告も出たりする。

宮脇紙と違って営業マンいないですし。

徳力ニワトリと卵ですよね。編集者いないのに営業つけられるのか、っていう。この違いは本当に大きいですよね。紙媒体だと「いつかは宣伝部行きたいです」とかあったのに、ネットにおいては広告をノイズ扱いする人が増えてますから。

宮脇生粋の編集者とか作り手って広告のことなんて全然考えてないですよ。広告部が仕事取ってきてくれるからなんとか保ててるのに。

徳力ある意味、お金のこと語るのは汚いみたいのがあるんでしょうね。

宮脇ネットのいいところって簡単にメディアが作れることで、人件費とか逆算して300万稼ごうとすればなんとかなるんですよ。ちっちゃいメディアをたくさん作って営業部隊をうまく動かせば、大儲かりはしないけど自分たちはちゃんと食っていけるくらいになる。

徳力広告については全社員で考えないといけないと思いますか?

奥山わたしは、その役割分担もきっちりしたほうがいいと思ってて。特に新聞社は、社会問題にしても政治にしてもシビアに叩かないといけない。現場の記者には何も考えずにハンターになってほしい。

徳力文春さんに「ネイティブアドとかやったら儲かるんじゃないですか?」って訊いたら、「広告を意識すると書けない記事が増えちゃうんですよ」って言ってて、お金をもらうことに対する意識ギアがすごく高いんだなって感動したことがあります。

奥山その意識がないと、なんのためにやってるの?ってなりますよね。金儲けしたいなら投資会社に行ったらいいわけで。

徳力僕は個人的にはグーグルアドセンスの衝撃も大きかったですね。自分の媒体で広告もらえるの?っていう。儲け方を考えなくてもアドセンスからお金が入ってくるんですから。

奥山ピンでできる人はアドネットワークでいいと思うんですよ。でも、みんながみんなできるわけじゃないし、一般的には1媒体に10人くらいが最適な人数じゃないですかね。

徳力スマホの広告とかってどうですか?

宮脇バナーはでかくて鬱陶しいですよね。

徳力バナーはきついですよね。しかもあれだけの面積を占有してるのに、さらに下から上に動いてきたりして。

宮脇しかも、スマホだと指の動きに合わせて動くバナーもあるでしょ。ああいうエグい誤タップを誘発すればするほど、広告自体はどんどん嫌われてしまいます。そんなの誰もがわかってるのに、クリック数だけを見て広告出したいってなるのは、本来おかしいな話ですよね。

徳力広告がノイズになってますよね。とはいえ、バナー的に表示されてるものであっても、本当に読みたいものへの誘導窓口ならOKなわけですよね。だからこそ、誘導する枠のところでユーザーをいらっとさせないことは必須でしょう。騙して連れてきたところで、騙されたほうは気分を害しちゃうんだから。

宮脇クライアントの満足度なんて度外視ですよね。

奥山僕はメディアにはちゃんとした結果を出せるポテンシャルはあると思ってるんですけど、どうしても現場の営業マンはエクセル競争に走らされてるんだろうなという印象です。

徳力そういうこと考えると大変だし、メディアは儲かんないと思ってる人も多いけど、たとえば『tokyowise』っていう媒体はスターバックス1社スポンサードでやってるんですけど、こういうバリエーションもあるってことがわかると、今後マネタイズの選択肢も広がってくるかなと思ってます。

様々な成功事例が挙げられたが、汎用的な必勝マネタイズモデルという結論は出なかった。ウェブメディアビジネスは難しい。しかし人はメディアを作りたがる。メディアビジネスは何かしらロマンをかき立たせるものなのだろう。

こちらの記事は2017年09月01日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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