クラウドファンディングから動画メディアまで。
朝日新聞「メディアラボ」の実態とは?
~朝日新聞の挑戦Vol.1~
新聞が朝の食卓に欠かせなかったのは今や昔。
24時間365日、スマホから最新ニュースにアクセスできるようになった現代、その発行部数の減少は止まらない。
事実2008年から1世帯あたりの部数が1部を割っている(日本新聞協会調べ)。
もちろん新聞各社は手をこまぬいているわけではない。
本紙に代わる収益源を確保しようと、日々試行錯誤を重ねている。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
- EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
朝日新聞はスタートアップだ
まるでベンチャー企業のようにテクノロジーとコンテンツを掛け合わせ、未来のメディアビジネスを描こうとしている老舗新聞社がある。創業130年を超える朝日新聞社だ。同社は2013年、「朝日新聞のDNAを断ち切る」というインパクト大のキーワードを掲げて新規部署「メディアラボ」を開設。同部署はまるでスタートアップ&ベンチャーキャピタルのように蠢動している。そのラディカルな媒体思想らしい取り組みではないか。
メディアラボ室長を務めるのは堀江隆氏。堀江氏は、2015年に室長に就任。経済部など編集部門の経歴が長いが、6年前に経営企画室に所属。紙の新聞に代わる新しい収益源の探求に注力していたが、限界も感じていたという。
堀江メディアの変化は激しく、その将来はなかなか見えない。新聞社にとって大きな転換期に道を切りひらくには、既存の部署が戦略を練るだけでなく、従来の考え方を断ち切る力を持った新しい部署の立ち上げが必要だったんです。
メディアラボは、新規事業立ち上げ、ベンチャー投資、R&Dの3つの機能を持つ。
堀江新しい事業を立ち上げることがわたしたちのミッションで、投資やR&Dは事業立ち上げのために不可欠なものという位置づけです。
新規事業立ち上げでは、部署開設と同時に全社員対象の社内新規事業コンテスト「START UP!」を実施し、様々なサービスを生み出してきた。
事業化してきたものに、自分の歴史を本にする「朝日自分史」、ペットのウェブメディア『sippo』、音声ニュースアプリ「アルキキ」などがある。注目なのはスタートアップ界隈でもトレンドワードのサービスが事業化していることだ。
一つは、クラウドファンディングサービス「A-port」。もう一つは今料理動画が隆盛を極める分散型動画メディアの『moovoo』だ。
個人体験を事業化
A-portは2013年のSTART UP!で事業化された。サービス名は、大きな夢を抱いた人が出帆するイメージを落とし込んだものだ。
プロジェクトを率いる中西知子氏は「私、A-port貧乏なんです……(笑)」と笑いつつ、説明してくれた。
中西事業を思い付いたきっかけは、わたし自身が支援者として参加したことでクラウドファンディングのおもしろさを知ったことにあります。
それまでクラウドファンディングの存在そのものさえ知らなかったんですが、ドキュメンタリー映画を創っていた友人から支援依頼があったことでサービスを知り、さらにその友人を応援し、目標金額を達成する中で、あたかも映画スタッフの一員であるかのような感覚を抱いている自分に気付いたんです。このおもしろさ、このタニマチ的な感覚をもっと多くの人に体感してほしいと思ったんです。
中西結果的に同映画が国際的な賞を受賞したことで、クラウドファンディングという仕組みがなければ、映画が作られず文化の損失になっていたということ。クラウドファンディングによって、才能はあるのにそれを形にすることができない人を助けられると考えました。
しかも、『こんなすばらしい人がいるんですよ』と報道することで、誰かのチャレンジをより多くの人に伝えられるのは新聞社の強み。これはもう、やるしかありませんよね。とモチベーションが高まった。
朝日新聞が運営することの強みは何といっても影響力のある自社媒体があることだ。新聞はもちろん、デジタル、『withnews』、グループ内の『ハフポスト』、『AERA』などで参加者のストーリーを伝え、ユニークな活動を大勢の読者に届けられる。
中西社会課題の解決につながるようなプロジェクトが多いので、記事にもしがいがあります。
記事化のタイミングも重要という。
中西アクセスした時点での達成率が2~3%くらいだと多くの人はすぐには支援しない傾向にあります。ところが80%くらいになると、こぞって支援しだし、目標金額を大きく上回って終了することが多い。ですので、スタート直後ではなく、ある程度支援が集まっているときに紹介できるようメディアにアプローチしています。
8月23日時点で総件数180、総支援額2億8600万円、目標金額達成率は約50%。購入型クラウドファンディングの国内最多支援者数(1万3103人)を達成。
撮影から編集まですべて自分たち
もう一つのmoovooは“半歩未来のライフスタイル”をテーマに、面白い“モノ”を動画で紹介。平日毎日動画を1本配信している。15年のSTART UP!で採択され、16年にベータ版として運用開始、今年に入って事業化した。当初、専従2人でスタートし、現在は5人に拡大。編集、広告営業、エンジニアがそろい、メディアチームの体をなした。
立案者は深田陽介氏。当初のサービスは、ニュースを静止画+テキストアニメーションで紹介する分散型メディアだったが、2か月運用し、ユーザーの反応が悪いことからモノの動画媒体にピボットした。その転換速度はスタートアップのようだ。今は、撮影、編集、出演すべてを自分たちでこなしている。
深田SNSはユーザーの反応がすぐ出るからわかりやすい。数字が伸びなければダメってことだし、ドライに改善し続けられるのがいいところですね。
深田氏はもともとエンジニアとして入社したため、映像作りに関する知識は当初ゼロに等しかった。しかし、動画制作についてかなりPDCAを回した様子をうかがえる。
深田他媒体を見て研究しました。1コマ目にフックとなるタイトルと動き、2コマ目に商品名を入れて、その後、商品を使ってみたくなるようなシーンを挿入するようにしています。映像が進むほどに視聴者が離れるので、カラーバリエーションなどの購入意欲の高い人向けの情報は必ず後半に入れるようにしています。
扱う内容がガジェットなど動きのあるものが多いのため、ユーザーからのリアクションが付きやすいという。いいね、シェアなどで自然とファンが増えていったのかと思いきや、
深田動画のコメントに返信するなどの地道な作業も手を抜かないよう心掛けています。しかし、分散型動画メディアは広告を打ってどんどん新しいユーザーを獲得していくのが当然の戦略です。
と、コンテンツとマーケティング両方に注力している。
8月24日時点で、フェイスブックファン数は7万8000人。目標はひとまず10万だ。ファンが増えるにつれ、広告の引き合いも増えてきた。
深田朝日新聞に動画商品がなかったので、よく話を頂くようになりました。また朝日の営業力の高さに目を見張るばかりです。
と、社内シナジーを生んでいる。
今後moovooは何を目指すのか--
深田モノ系なのでECやリアル店舗のコーナーなどで売ることに発展させたい。また雑誌と組んで動画制作も予定しています。
そう語る姿はまるで、生き生きと展望を話す様子は起業家のようだ。
新規事業コンテスト開始から5年を経た。依然応募数は毎年100件を超えているという。
堀江室長社員のモチベーションの高さに感心させられました。もちろん、裏を返せば(新聞社の未来への)“危機感”ってことなんでしょうけど。
こちらの記事は2017年09月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
松本 玲子
編集
海老原 光宏
連載スタートアップ的メディア論考
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