連載スタートアップ的メディア論考

既に15社を採択!
朝日新聞アクセラレータプログラムの魅力とは?
~朝日新聞の挑戦Vol.2~

「朝日新聞のDNAを断ち切る」との公言のもと、未知の領域にチャレンジし続けている朝日新聞メディアラボ。

メインの機能としてベンチャー投資も行う。

アクセラレータープログラム「Asahi Shimbun Accelerator Program」を開催し、ベンチャー企業へアドバイス、投資を実施している。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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朝日新聞が起業家を応援

Asahi Shimbun Accelerator Programは2017年に3度目を迎えた。同プログラムのこれまでの応募数は約200社。2015年には6社、2016年には9社が採択されている。

採択にあたっては、書類チェックや面談を重ねて社内外の人間で意見を出し合いながら協力する企業を選び、選ばれた企業は、期間中、渋谷のメディアラボオフィスを拠点にしてプロジェクトをブラッシュアップさせていくこととなる。

2017年3月、東京都中央区の浜離宮朝日ホールに行われた「デモデイ」。
アクセラレータープログラムで採択されたスタートアップ企業の代表8名
提供:朝日新聞社

白石採択後は、プレスリリースを効果的に広げる方法を指南したり、社員スキルを提供したりと、様々な角度から支援します。事業プランもさることながら、何らかの面で私たちがサポートできることが選ばれる条件です。

例えば、倉庫のマッチングプラットフォーム『souco』は弊社グループ企業の物流倉庫とシナジーがあると思い、ご一緒しました。

そう話すのは、メディアラボでAccelerator Programを担当する白石健太郎氏。白石氏によると、その他にも、“朝日”の信頼度を武器に、起業家と大手企業をつなぐための橋渡し的役割を担うことなどもあるという。

白石実は、サポートしているように見えてこちらが学ぶことのほうが大きいのかもしれません。

採択された企業はメディアラボに入居するので、弊社社員が見学させていただくことも多いのですが、他社の事業立ち上げをゼロから目の当たりにできる機会なんてそうそうないものです。しかも、生きるか死ぬかって中でやっている彼らの開発のスピードや取り組み方も全然違うから、その刺激も大きいですよね。

白石健太郎氏

その結果、プログラムに参加した社員が自らの部署で新規事業を提案する例も出てきているという。

さらに、いくつものプロジェクト立ち上げを観察する中で、“失敗パターン”が見えてくることも大きなメリットだ。

白石複数の事業を並行して進めようとしてどれも失敗に終わるのはよくあるパターンですし、技術に自信がある人ほど、『検証しないままサービスをたちあげたものの、使う人がいませんでした』みたいな結果に終わりがち。

こういった情報は、メディアラボの中で新規事業を立ち上げている人とも積極的に共有して、同じ轍を踏まないよう心掛けています。

スタートアップをサポートしたノウハウを自社に還流させ、新たな事業を創出する。メディアラボの仕組みが美しく回っている。

白石氏の業務を聞いていると、ベンチャーキャピタリストと話しているようだが、意外なことに彼は新卒で朝日新聞入社というのだから驚きだ。

白石スタートアップ界隈の方から、よく『何社目ですか?』と聞かれます(笑)

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失敗の先にこそ大きな成功がある

ここまでレポートしてきたように、メディアラボに携わる社員たちはスタートアップのように新領域へとチャレンジしている。

このスタッフたちの奮闘ぶりに呼応するように、朝日新聞本体も進化し始めた。

堀江この春には、販売をはじめとするデジタルまわりに力を入れた新規事業に取り組む部署が各部門にできました。そこで私たちメディアラボの新しい役割として、各新規事業部署と連携しながら、時にはそこをサポートしていけたらと考えています。

我々の取り組みの中には失敗した事例もたくさんあるので、それを共有することも新規事業開発にとってプラスになるはず。同時に、各部門から事業を提案してもらい、それに対してこちらで持っている事業化調査予算を充てることも始めました。

現在、既にいくつかの部門から具体的な提案が出ている状況です。

堀江

新しい取り組みの中でも、失敗から学んだことは生きている。そもそも“ラボ”であるのだから、失敗を重ねて成長し続けるのは当然。まだ見ぬメディアの未来へ向けて研究を続ける日々だ。

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メディアは社会課題の解決

もちろん、新聞社のアイデンティティーである「ニュース発信」に関しても、あるべき姿を模索し続けている。ブログ、SNS、スマートフォンと技術が進化し続けている時代においては誰もがパブリッシャーだ。

堀江ジェフ・ジャービス氏(ニューヨーク市立大学大学院ジャーナリズム学科教授)もおっしゃっている通り、今はメディア企業も市民も同列です。同じニュースコミュニティーであり、同じエコシステムのメンバーという意味ではなんら変わりありません。

じゃあどうやって媒体社が差別化をはかればいいかというと、氏の言葉を借りれば『メディアはサービス業である』ということをしっかりと念頭に置いて報道のありかたを考えるということに他なりません。

サービス業である以上、いかに多くの人に読んでもらって、いかに多くの人の行動を変えることができたかが評価されるポイントです。ジャーナリズムをコアにしたメディアという点は不動ですが、その周りにECサイトやバーディカルメディア、デジタル広告などを配置し、社会課題の解決につなげていくことがわたしたちの大切なミッションです。

このミッションは、同社が2016年に掲げた中期経営計画における企業理念「ともに考え、ともにつくる みなさまの暮らしに役立つ総合メディア企業へ」とおおいにリンクする。

堀江ニュースに接した人に行動を変えてもらうためにはどうすればいいか考える先に、いろんな事業が出てくると思うんです。その一つひとつが、みなさまの豊かな暮らしに役立つよう、メディアの未来を開拓し続けたいですね。

こちらの記事は2017年09月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

編集

海老原 光宏

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