特別連載信用経済社会におけるプラットフォーマー ネットプロテクションズ

開発部門が「全社の組織づくり」まで担うワケとは。
エンジニア知見を最大化させる戦略を2人のカタリストが語る

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インタビュイー
石川 清大

2013年新卒でネットプロテクションズに入社。セールスやマーケティング、カスタマーサポートといったビジネスサイドの仕事を長く担当し、その後は採用や組織づくりにも短期間ながら関わる。2019年4月からビジネスアーキテクト部門に移り、プログラミング未経験ながらシステム刷新などのIT実務を経験。現在はビジネスアーキテクトグループの「カタリスト」として部門や社全体の組織づくりなどをみる役割を担う。

相澤 雄大

2009年新卒でフューチャーアーキテクトに入社。2年半ほどITコンサルティングの現場で活躍しながら、「事業会社でプロダクト開発に関わりたい」と考えネットプロテクションズに転職。開発部門にいながら組織づくりやメンバーの成長支援にも携わり、現在はビジネスアーキテクトグループの「カタリスト」として社全体の組織づくりまで担う。

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「事業視点を持ったエンジニア」は、どうすれば育つのか──エンジニア組織のマネジメントにおいて、しばしば議論にのぼるテーマだ。

そのヒントが、後払い決済事業を中心にクレジットテック市場を牽引するネットプロテクションズの組織に隠されていた。

同社には「システム部門」が存在せず、エンジニア組織を「ビジネスアーキテクトグループ」と名付けている。「ビジネス」を冠するのは、チームの目的を「永続的な企業成長」に置いているからだ。ビジネスアーキテクトグループは、「テクノロジーとビジネスが融合した新たな生態系をつくる」をミッションに、中長期的な経営戦略を実現するシステムを構築している。

本記事では、そのビジネスアーキテクトグループで“カタリスト”を務める相澤雄大氏と石川清大氏にインタビュー。「事業視点を持ったエンジニア」を生むマネジメント術を聞いた。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「システム部門」を超え、永続的な企業成長にコミット

ビジネスアーキテクトグループの担当業務は幅広い。

サービスや事業ごとに、システムの企画・開発や運用・保守を手掛けるのはもちろん、それらのシステムを支えるクラウドやインフラの運用・保守まで担っている。さらには、全社的に使用しているシステムの管理・運用を通じて「働き方を変えていく」役割も担うなど、コーポレート部門としての側面も持つ。

提供:株式会社ネットプロテクションズ

もともとの名称は「システムグループ」だったが、2014年に「ビジネスアーキテクトグループ」と改名。「ITを活用してビジネスを設計できる人を増やす」という経営方針のもと、そうしたメンバーが所属する部門への変化を目指した。

株式会社ネットプロテクションズ ビジネスアーキテクトグループ カタリスト 石川清大氏

石川僕はビジネスサイド出身なのでよく分かるのですが、例えばセールス部門としては、目の前に大きな案件が転がっていたら、何としてでも受注したくなってしまいます。でも、目の前の業績や業務を改善するための施策を打ったとしても、すぐに賞味期限がきてしまいます。他部署との連携や機能拡張がしにくくなったり、中長期的には動きが取りにくくなったりすることが多々ありますから。

そこで、ビジネスアーキテクトグループが事業部を横断した中長期的な視点を持ち、他の事業にも応用できる汎用的な仕組みを構築する役割を担っているんです。そうすることで、開発コストが削減でき、新たなサービスの立ち上げもスムーズになります。

石川例えば過去に、部門ごとに別々の顧客管理システムを使っていた状況を改善すべく、全社的にクラウド型営業支援ツールの『Salesforce』に統合するプロジェクトを主導しました。こうした業務推進をする上で、横断視点は非常に重要です。

2020年現在、部門のミッションは「テクノロジーとビジネスが融合した新たな生態系をつくる」にアップデートされている。ビジネスアーキテクトグループが手掛けているサービス企画や開発を、あらゆる社員が担えるようになる状態を目指す。いわば、一部門の視点を全社に伝播していくことで、全社的に機能するOSを更新しようとしているのだ。

株式会社ネットプロテクションズ ビジネスアーキテクトグループ カタリスト兼企画室 相澤雄大氏

相澤優れたサービスをビジネスとして展開していくためには、それを支えるシステムやテクノロジーについても理解していないと、適切なアクションを取れないと思うんです。サービスの企画・開発から営業、運用まで、システムやオペレーションとしての汎用性や拡張可能性を考慮しないと、無駄の多い設計になってしまいますから。

ビジネスアーキテクトグループだけでなく、あらゆるメンバーがそうした素養を身に付けないと、永続的な企業成長は難しいはず。「究極的には、部署がなくなるのが理想ではないか?」といった議論すら出ていますね。

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時間軸も、事業部も横断。全社を“立体的”に見るエンジニア組織

「永続的な企業成長」にコミットするビジネスアーキテクトグループでチームを引っ張るのが、相澤氏と石川氏だ。

相澤氏は、2009年4月に新卒で大手SIerのフューチャーアーキテクトに入社。複数のプロジェクトで、企画、要件定義、設計、開発、保守運用を経験した。

しかし、次第に「事業やサービスを自らの手でつくりたい。主体的な立場で関わりたい」との想いを抱くようになる。入社3年目の2011年には事業会社への転職を決意。事業の成長に確信を持てたこと、プラットフォームビジネスであること、新サービスの立ち上げに携われる可能性が高いことが決め手となり、ネットプロテクションズにジョインした。

その後は、ビジネス部門とIT部門の架け橋の役目を務めながら、BtoC向け会員制決済『atone』の立ち上げを推進。自らコードを書きつつ、エンジニア未経験のメンバーの成長支援まで手掛けた。

現在は部門全体の方針策定やリソース配分など、グループの組織マネジメントを担う。自身の仕事を「事業や機能を横断し、ネットプロテクションズを支えるプラットフォームをつくっている」と表現する。

相澤短期・中長期の時間軸をどちらも考慮しながら、複数の事業を見わたさなければいけないので、かなりハードですね。でも、中長期的な経営戦略に鑑みて、多くの変数を考慮しながら最適な仕組みを構築していくプロセスは、とてもチャレンジングです。

石川氏は、2013年にネットプロテクションズに新卒入社。セールスやマーケティング、カスタマーサポートから、採用、組織マネジメントまで、ビジネスサイドの経験を幅広く積んだ。

ビジネスアーキテクトグループに参画したのは、2019年4月。ビジネスアーキテクトグループのミッションがアップデートされたタイミングで、全社的にも同グループの底上げが重要課題となり、マネジメント経験を持つ石川氏がコンバートされたのだ。エンジニアとしての経験はゼロだったが、「分からないことは気軽に聞ける」という部署内の空気感にも助けられ、実務を通じて着実にキャッチアップしていけたそうだ。

現在は相澤氏と同様に、組織マネジメントを担当。予算管理・策定や採用・成長支援、他部門や外部パートナーとのコミュニケーション、アライアンス推進、各事業部の開発投資計画策定と、管掌範囲は多岐にわたる。

石川ビジネスサイドの経験しかなかったときに比べ、会社をより立体的に捉えられるようになった感覚があります。短期的な予算達成だけでなく、ITやシステムといった資産にも鑑みながら、数年後のプロダクトの展望やP/Lまで考えて組織を成長させなければいけませんから。

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“マネージャー”は置かない──権限委譲が進みやすい理由

相澤氏と石川氏は、組織マネジメントを担ってはいるものの、いわゆる「マネージャー」ではない。

ネットプロテクションズは「自律分散協調組織を運営するためには、全員がマネージャーとして機能する必要がある」という思想のもと、2018年にマネージャー職を廃止した。代わりに、各部署における情報・人材・予算の采配権限を移譲・共有する「カタリスト」という役割を置く。

相澤氏と石川氏も、ビジネスアーキテクトグループのカタリストだ。「権限を移譲・共有する」役割であるため、カタリストだけで意思決定することはなく、できる限り全メンバーがフラットに話し合いながら、組織づくりを進めている。

相澤ビジネスアーキテクトグループには、基本的に「コードだけ書いている」状態のメンバーはいません。全員が何かしらの形で、事業・組織上の意思決定に携わっている。部門の存在意義が「ネットプロテクションズを成長させる」点に置かれているため、事業や組織のことも踏まえて技術を取り扱うことが重要です。

積極的に権限を移譲していくことで、個々のメンバー、ひいては組織としての成長スピードが速まるメリットもある。メンバーとしても、「強みとやりたいことさえあれば、何でもできる環境だ」と相澤氏。大型案件のシステム企画・開発はもちろん、他部門や外部パートナーとの協働、採用・成長支援やカルチャーづくりまで、あらゆる成長機会に携われる。

石川とにかく、幅広い観点から開発を進めていく経験が積める場所だと思っています。中長期的な事業・組織の計画を踏まえて、社内外の多くのステークホルダーと連携しながら仕事を進めていかなければいけませんから。

特に事業部、さらには会社全体を巻き込むような超大手クライアントの決済API連携を推進するプロジェクトでは良い経験ができました。社内の計画を引き直したり、そのうえで開発パートナーのリソースや開発案件の優先度を調整し続けたりしていましたね。

相澤立ち上げ期から拡大期まで、さまざまなフェーズの事業に携われます。豊富に貯まっているデータや信頼といった資産も使い倒せますしね。

また、新機能開発の際は、開発組織づくりを目的に、コードを書いてメンバーを支援することもあります。もともと、ものづくりが好きな性分なので、中長期含め成果が出るなら役割にこだわらず「何でもアリ」である点もネットプロテクションズの魅力ですね。

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技術とビジネスを融合させる。「みんなで運営」を実現するために

今後もビジネスアーキテクトグループは、全社のあらゆる部門にテクノロジー視点をインストールする施策を推進していく。直近の課題は、「みんなで運営」と「ブラックボックスの可視化」だ。

相澤ビジネスアーキテクトグループは、大きなミッションは共有しているものの、個々のメンバーは多様な仕事に取り組んでいます。だからこそ、より意識的にみんなで運営していくカルチャーを醸成していきたい。経験年数も役割も関係なく、みんなで運営していく文化を、時間をかけて育てていきます。

石川全社的な観点でいえば、他部門から見て、組織の内情が見えづらくなってしまっている感覚があります。ビジネスアーキテクトグループが、どんな観点で意思決定し、仕事を進めているのか。ブラックボックスを可視化していく努力を、より一層していく必要性を感じています。

ミッションを推進するため、新規のメンバー採用も進めている。フィットするのは、技術をビジネスの力に変えられる人だという。

相澤もちろん、技術への関心を持っている必要はあります。新しい技術を取り入れていく機会もたくさんある。高い技術力があるからこそ、事業はスケールします。それに加えて、「技術をいかに企業成長に活かしていくか」を主体的に考え、進めていくことに関心のある人が向いていると思います。

石川とにかく、多面的にものごとを考えて仕事を進めていく機会はたくさんあります。一つのことに専心するタイプよりも、さまざまな観点を考えて技術を活かしていきたいタイプの方が向いているでしょう。

こちらの記事は2020年08月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

校正/校閲者。PC雑誌ライター、新聞記者を経てフリーランスの校正者に。これまでに、ビジネス書からアーティスト本まで硬軟織り交ぜた書籍、雑誌、Webメディアなどノンフィクションを中心に活動。文芸校閲に興味あり。名古屋在住。

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