「上場後こそ楽しい、今が人生で一番働いている」
ツクルバ村上浩輝が挑む“第三創業期”
上場はゴールではない──。IPOを経て、さらなる挑戦に踏み出しているベンチャー・スタートアップを取り上げる連載企画『After IPOの景色』。第4回は、リノベーション住宅の流通プラットフォーム『cowcamo』やシェアードワークプレイス『co-ba』を展開する、ツクルバにスポットを当てる。
2011年の創業時は、デザインの受託事業をメインに展開していたツクルバ。2015年には第三者割当増資で資金調達を実施し、『cowcamo』を中心としたウェブサービス事業を主軸に急成長を目指すスタートアップへと変貌した。FastGrowは2019年春、変貌の経緯や、『cowcamo』を成長に導いたコミュニティデザインのポイントを伺っている。
2019年7月には、東証マザーズへ上場。「人びとの生活や文化を進化させる、日本を代表するような会社をつくる」という創業時からの志に向けて、さらなる歩みを進めた。本記事では、共同創業者・代表取締役CEOの村上浩輝氏にインタビュー。上場を「第三創業期」と捉えるツクルバの、さらなる挑戦に迫る。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
東証の鐘の音は、“マラソン”のスタートを告げた
村上氏は、ツクルバの歴史を3つのフェーズに分けて説明する。2011年にオフィスなどの「場」に特化したデザインファームとして産声を上げ、自己資金のみで会社を黒字運営していた時期が「第一創業期」。シェアードワークプレイス『co-ba』の運営や、メルカリのオフィス設計を担当した企業として、一定の知名度を獲得していた。
2015年に第三者割当増資でEast Venturesやアカツキから資金を調達すると、「第二創業期」に突入。『cowcamo』を中心に据えた、ウェブサービス事業を基幹とする“スタートアップ”として累計10億円弱の資金を調達し、Jカーブを駆け上がった。
そして、マザーズ市場への上場を果たした2019年7月に、「第三創業期」がスタートした。
村上第二創業期を、急成長と共に上場という短期的な目標達成に向けて一直線に突っ走った“短距離走”の時期と捉えるなら、第三創業期は“マラソン”のスタート時期だといえます。長期戦と捉え、より精密な戦略を立て、高度な事業運営にチャレンジしています。
創業時からの志を遂げるため、短期的な利益にとらわれず、中長期的に事業を成長させることを最優先にしていかなければいけません。
“マラソン”を走っていく際、上場に伴って入手しやすくなったリソースが武器となる。村上氏はこの第三創業期を、「経営者にとっても、メンバーにとっても最もやりがいがある時期」と表現する。
村上上場したことで、ヒト・モノ・カネが調達しやすくなりました。有名なゲームソフト『クロノ・トリガー』の表現を借りれば、「強くてニューゲーム」を戦っている感覚です。
これまで培ってきた力にもレバレッジをかけ、より大きなチャレンジに挑める環境になっています。
マネジメント体制を、上場前から構築
上場後の2019年8月から2020年1月まで、売上総利益は前年同期比161%を達成。着実に“マラソン”を走りはじめられているのは、上場前からの周到な準備の賜物だ。
村上以前から見聞きしていたことではありましたが、上場によって生じる変化は、想像を超える大きなものでした。しっかり対応できる盤石なマネジメント体制を築いておくことが理想ではありますが、簡単なことではありません。
上場は、組織崩壊のきっかけにもなり得ます。いきなり“短距離走”から“マラソン”に切り替えると体力が続かないのと同じように、事業がうまく継続していかない危険があります。
その後の成長ビジョンが見えなくなり、これまでの道のりを支えてくれたメンバーがやりがいを感じにくくなり、辞めてしまうケースも少なくないと聞きます。
上場がゴールである印象を与えないよう、社内に「これは第三創業期のスタートだ」というメッセージを繰り返し発信。第三創業期への期待感を醸成することで、意識を統一した。「ほとんどのメンバーが、第三創業期を本気で戦おうと思い、残ってくれています」と村上氏は自信をのぞかせる。
また、厳しい上場審査は組織整備のチャンスととらえ、うまく利用した。対策を練っていくなかで、よりガバナンスの効いた「筋肉質な組織」への変貌に成功。法務・経理をはじめバックオフィス機能が強化され、意思決定プロセスも明確になった。
「組織内の無駄を削ぎ落として、事業でチャレンジしていくための“守り”を固めています」。
上場後の緩みは、経営者の油断から生まれる
一方で、村上氏は別の危機感も抱いている。社員数が増え、いわゆる“100人の壁”が立ちはだかるフェーズに置かれているからだ。
村上一般に、組織規模が100人を超えると、メンバーの会社への当事者意識が薄まります。全体像を把握できなくなると、自らを“組織の一部”と認識するようになり、組織内の事象を自分ごととして捉えられなくなるからです。
たとえば、オフィスにゴミが落ちていても、「誰かがやってくれるだろう」と拾わなくなる。
また、“阿吽の呼吸”のコミュニケーションが通用しなくなっている感覚もあります。ミッションに掲げている「場の発明」という言葉の解釈も、個人間で差が生まれ始めました。
しかし、村上氏は悲観していない。この危機を乗り越えてこそ、組織としての強靭さが増していくからだ。
村上個人も組織も、危機によって強くなるんです。いま日本を代表するあのメガベンチャーも、上場直後の3年間は離職率が30%を超えていたと聞いています。
苦況を乗り越えてこそ、強い組織を構築できる。本気で日本を代表する会社をつくりたいのに、このレベルの危機を乗り越えられないようでは、退場したほうがいいと思っています。
現在は、メンバーの目線を合わせるため、経営理念を再定義するプロジェクトを推進している。ミッションの解釈やクレドの立ち位置を改めて整理し、“マラソン”を戦いやすい組織をつくり上げているのだ。
村上上場後の半年は、僕個人としても、それまでの人生で一番働いた期間だと思います。ちょっと記憶が曖昧なくらい(笑)。
経営者が少しでも浮かれて気を抜いていると、すぐにメンバーに見抜かれ、たちまち組織の空気が緩んでしまいますから。勝って兜の緒を締めよ、ですね。
会社は創業者のものではない。ツクルバを“公器”へと育てるために
組織の再構築を進める一方で、これまで貫いてきた「事業を通じて社会に貢献する集団」としての経営哲学を変えるつもりはないという。
村上僕たちはクレドにも含まれている、「Philosophy&Business」を大切にしています。
自分の志向性と仕事を一致させたうえで、より良い社会の実現と、利潤の追求を両立させること。江戸時代の農政家である二宮尊徳は「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」と言いました。
ビジネス活動の一挙手一投足そのものにフィロソフィーを持ち、社会貢献を果たしながら、堂々と収益をあげていく姿勢は、これからも変わりません。
ツクルバは「Philosophy&Business」を追求した先に、「文化の創造」を見据えている。『cowcamo』はリノベーション文化を促進し、趣味嗜好を反映した住居での暮らしを実現してきた。人びとの生活を変え、やがて「文化」として定着させていく事業づくりに、今後も邁進していく。
もちろん、一朝一夕には成しえない。村上氏は、自身の人生をも超えるタイムスパンで未来を構想していると意気込みを語った。
村上この世を去る前に、何百年にもわたって、価値を提供し続ける集団をつくり上げたいんです。会社は、公器です。創業者のものではなく、クライアントやユーザーをはじめ、社会のために存在しているものだと認識しています。
僕は創業者として、ツクルバを自分の寿命が尽きても価値を創造し続ける器にしなければいけないと思っています。
創業者のものではなく「公器」を目指すからこそ、「当事者」として第三創業期を担うメンバーが必要だ。創業以来、採用の最終面接を、自ら担当し続けてきた村上氏。リソースの限界が来るまでは、立ち会い続ける覚悟だ。
村上いまのツクルバは、上場前を経て整ったインフラをもとに、より一層攻めの姿勢を強化するフェーズに入りました。さらに多く、優秀なメンバーに集ってもらう必要がある。
「自分が会社をつくっていくんだ」という意識を持った人に仲間になってほしいです。既存のシステムに便乗するのではなく、会社を新たなステージへと押し上げる覚悟を持ち、そのチャレンジを楽しめる人と働きたいですね。
こちらの記事は2020年04月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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