ドローン物流、“旅×お手伝い”、アバター遠隔接客
「新常態」をつくるスタートアップが集結!──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社エアロネクスト、株式会社おてつたび、株式会社UsideUの3社(登壇順)だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
株式会社エアロネクスト:
ドローン物流のためのインフラ開発、社会実装に挑む
最初に登壇したのは、次世代ドローンの研究開発を行うエアロネクストのコミュニティマネージャー、近藤建斗氏。同社は、ドローンの技術ライセンスビジネスを手掛けている。
近藤氏は、近年、ドローン活用に向けた動きが活発になっていると語る。
近藤都市部の有人地帯での目視外飛行(※)を2022年に実現させる目標を示したロードマップが政府で閣議決定され、制度設計が進められています。実現すれば、過疎化地域での荷物配送など様々な用途で、ドローンの社会実装が進むと期待されています。
こうしたドローンの普及も見据え、エアロネクストはハードウェアから、より安心安全な運行を可能にしようと試みる。
近藤ドローンの機体構造は、この30年間ほとんど変わっていません。実は、改善の余地が沢山あるんです。ドローンの用途が広がり、様々なモノあるいは人を運ぶようになったときにも、安心を保証できるような技術を開発しています。
エアロネクストが開発するのは、従来の機体よりも安定した飛行を可能にする、独自の重心制御技術『4D GRAVITY®︎』だ。この技術を特許化し、ライセンスビジネスをグローバル展開していく。これまでの特許出願件数は300件を超え、実際に登録された数は70件を超えている。最近ではJAXAのオープンイノベーションチャレンジにも採択され、共同開発を進めている。
昨年からは、コロナ禍によるEC需要の増加や配送業界の人材不足を踏まえ、物流領域での研究開発に注力している。
2020年9月には、産業用ドローン大手の自律制御システム研究所と、『4D GRAVITY®︎』を搭載した産業用ドローンの共同開発を発表、量産に向けてライセンス契約を締結した。また、ANAホールディングスとも、物流サービスを担うドローンの共同開発に向けて業務提携を行った。
また同社は、こうした物流ドローンの機体開発だけでなく、配送サービスの社会実装にも取り組んでいると語る。
近藤2021年1月には、セイノーホールディングスとともにスマートサプライチェーン『SkyHubTM』の共同開発を発表しました。これは、特定地域におけるEC事業者への注文から受注、ドローンでの配送までを共通のIDで管理することで、最適な物流を実現するシステム、サービスモデルです。現在は山梨県小菅村で、サービスモデルの実証実験を進めています。
同年の1月には、ドローン配送サービスを主事業にする戦略子会社NEXT DELIVERYを設立しました。地方自治体や企業がドローン配送を導入するための物流ソリューションを提供しています。
NEXT DELIVERYは本店を山梨県の小菅村に置いており、今は過疎地域での効率的な輸送に向け、既存の物流システムも踏まえながらどのようにドローンを活用できるのか、社会実装に向けた検証を引き続き行っていきたいです。
2022年の有人地帯での目視外飛行実現を見据え、過疎地域での日本一早いドローン配送の社会実装を目指しているという同社。「特にエンジニアを積極的に募集しています。ドローンに興味のある方は、ぜひお気軽にご連絡ください」と近藤氏は語り、ピッチを締めくくった。
採用情報
株式会社おてつたび:
お手伝いをしながら地域の魅力に出会えるマッチングプラットフォーム
続いて登壇したのは、おてつたび代表取締役CEOの永岡里菜氏。同社は、短期的・季節的な人手不足で困る地域の事業者と、知らない地域に旅をしたい人をマッチングするプラットフォーム『おてつたび』を開発・運営している。永岡氏曰く『おてつたび』は、お手伝いと旅をかけ合わせた造語だと言う。
同サービスにおいて、お手伝いを必要としている事業者や自治体側のユーザーは、求人を無料で掲載することができる。また人手不足の解消だけでなく、実際に地域を訪れてもらい、魅力を知ってもらう機会も提供することができる。
旅をしたい側のユーザーは地域の困りごとをお手伝いする事により報酬を得ながら旅行をする事が可能なため、行きたかった地域にいく際のボトルネックになりがちな旅費を軽減する事ができ、知らない地域を訪れ、地域の方との交流を楽しむことができる。
こうした仕組みによって、永岡氏は単に事業者と旅をしたい人をつなぐだけでなく、「季節労働」や「出稼ぎ」のイメージを変えたいと考えている。
永岡地方では、昔から出稼ぎや季節労働に支えられてきた仕事がありました。私自身も地方でそうした仕事をしたことがあり、ありのままの地域の魅力をしれた非常に良い経験でした。
しかし今は、こうした言葉に対してネガティブなイメージを持つ人も多いと思うんです。怖いとか不安定とか、知り合いがいないと入り込めないとか。
そうしたイメージを払拭し、全国の若者が地域と関わりたいと思ったときに、地域とつながれる状態をつくれたらと考えています。
若者が地域と関わる機会をつくろうと起業した背景には、永岡氏の育った環境がある。
永岡私は漁業と林業が盛んな、三重県の尾鷲市という場所で育ちました。美味しい特産物の多い素敵な場所だと思っていますが、気軽に「来てよ」と友達を呼べるかというと難しい。東京からだと交通費もかさみますし、有名な観光地に比べると、インターネットに情報も少なく、訪れる心理的ハードルも高い。
だったら、そうしたハードルを取り除く仕組みをつくればいい。そう考えて3年半前にサラリーマンを辞め、2年半前に起業しました。
同社が掲げるミッションは、「誰かにとっての“特別な地域”をつくる。」だ。“特別な地域”とは、「つい誰かを連れて行きたくなる」「地域の名前を見かけると、商品を買ってしまう」そんな地域の応援団やファンになるような“関係人口”という多様な関わり方を目指している。永岡氏は「遊びに来た人が地域を好きになり、また戻りたいと思ってくれる。人の輪がつながり、地域にもお金が回る世界をつくりたい」と語る。
現在、同社は45都道府県におてつたび先があり、全国の自治体やDMOなどとも連携している。「おてつたび」を利用して地域のお手伝いをしたユーザーの約6割が、再度その地域に訪問している。他にも、地域の商品を購入したり、友達を連れてお客さんとして遊びに行ったりと、着実に関係人口を増やしている。
永岡『おてつたび』を利用した方のなかには、地域で就農を決断したり、お手伝いした事業者のもとで就職されたりしています。他にも、休学して現地でインターンしている方も出てきており、出会いを生み出す役割を果たせていると少しずつ手応えを感じてきています。
おてつたびは、ANAや小田急電鉄、農協などの様々な企業とも連携し、地域活性化に取り組む。2020年12月には、プレシリーズAの資金調達も実施し、さらなる成長を見据える。「各ポジションで採用を強化しています。特にエンジニアや事業責任者を募集していますので、ご興味ある方はぜひお問い合わせください」と永岡氏は呼びかけた。
採用情報
株式会社UsideU:
接客の質向上と店舗の無人化を実現するアバター遠隔接客クラウド
最後に登壇したのは、アバター遠隔接客クラウド『TimeRep』を開発・運営する株式会社UsideU代表取締役の高岡淳二氏。
『TimeRep』は、接客案内や実演販売を遠隔化し、店舗の効率化や販売促進を支援するSaaSだ。販売員がアバターシステムを使用して、顧客への声掛けから接客、販売までを行うことができる。
こうした遠隔接客クラウドでは、実際に販売員が顔を見せて接客を行うものもあるが、独自開発したアバターを使用する理由について、高岡氏は次のように語る。
高岡アバターであれば、販売員はお客様に見えてしまう背景などを気にせず、パソコン一つで、自宅から接客や実演を行えます。また勤務地や職場環境にこだわらず柔軟に働きやすくなります。
企業側も勤務地に関係なく、優秀な販売員を採用できます。実際に優秀な実演販売スタッフに遠隔接客を行ってもらった結果、売上が20〜30%向上した事例もあります。
最近はコロナ禍で実店舗の役割が見直され、多くの企業が店舗の無人化や接客のオンライン化に取り組んでいます。企業にとってもアバターの活用は有益だと考えています。
また、TimeRepでは接客の対話データや人材の稼働状況、各顧客の接客段階も可視化することができる。どのようなお客様が訪れ、どのような会話をしたのか、買ってくれたのか、あるいは買ってくれなかったのか。従来はブラックボックス化していた情報を可視化し、接客の質を向上できる。
最近では接客や販売だけでなく、金融領域の受付やビジネスの商談、あるいは心理カウンセリングなどにも活用が進んでいる。
高岡プライバシーが関わる領域では「アバターでお願いしたい」というニーズも多く、需要の高さを感じています。
「金融領域やビジネスの商談もアバターで代替できるのか?」と疑問を持たれるかもしれませんが、実際に地方銀行での受付やローン受付での活用事例もあります。
もちろん金融や不動産などの領域では、アバター接客に対してお客様が一定の近寄りづらさは感じると思います。
それについては、これから小売などの領域から活用が進み、社会全体に認知が広がることで変わってくるのではと考えています。
高岡氏は、比較的接客にまつわる規制の少ない小売業界、なかでも実演販売を入り口に、アバターによる遠隔接客の普及、事業成長を見据えている。
現在、導入企業には常磐薬品工業や東急ハンズ、アサヒビールなど幅広い業種の企業が並ぶ。今後は半年以内に500店舗の導入を目標に、アバター遠隔接客クラウドの展開を目指しているという。
「資金調達を見越して、メンバーを募集しています。DX・事業開発メンバーやエンジニアにご興味ある方は、ぜひお声がけください」と語った。
採用情報
第32回目となった今回は、物流ドローンや「旅×お手伝い」のサービス、アバターによる遠隔接客など、幅広い領域の“負”を解決するスタートアップが登壇した。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年03月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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