入退院支援クラウド、建設業マッチング、医療・建設の負を解消する注目スタートアップ──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社3Sunny、ツクリンク株式会社の2社(登壇順)だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY YUI TSUJINO
3Sunny
入退院業務を効率化する医療従事者向けSaaS
最初に登壇したのは、入退院支援クラウド『CAREBOOK』を開発・運営している3Sunny取締役COOの榎本順彦氏。
冒頭で榎本氏は、医療・介護業界の業務・事務手続きにまつわる課題を説明した。
榎本前提として、日本の医療は「機能分化型」の構造になっています。これは、一つの患者さんを治療するにあたって、複数の医療機関・関係者が役割を分担して、医療を提供している仕組みを指します。
例えば、日頃から通院しているクリニックがあり、もし急病で手術が必要になれば大きな病院を利用します。特に高齢者の方は継続してリハビリが必要になるケースが多くリバビリ特化の病院やの介護施設に行ったり、自宅に帰ったら訪問診療を受けたりします。つまり1人の患者さんに対し、様々な医療介護施設が関わってきます。
その際に、入院から退院まで非常に多くの手続きを挟まないといけません。患者さんに治療の方法について許可をもらうのはもちろん、患者さんの家族に「退院したら次はこの病院・介護施設に行きましょう」と選択肢を共有し、合意形成していく。都道府県をまたいだ移動が必要な場合などはより大変です。
次の病院を探すにしても、病院のクチコミなど信頼できる情報は少ないため、探すのも大変です。連絡手段は電話やFAXが多く、一人の患者さんの行き先を探すために何十件も電話をかけるケースもあります。
入退院業務における情報が未整備であること、調整業務が非効率であること。この二つを解決したいと考えています。
『CAREBOOK』は、入退院業務の負担軽減・効率化を行う医療機関向けのSaaSだ。
患者の入退院調整の状況管理、転院先となる病院や訪問診療の検索、打診先への書類添付やFAX送付状作成などを行える。病院への一括打診や、打診後にチャットで連絡できる機能もある。
2021年7月時点で、導入病院数は300件を超えた。利用した病院からは「調整業務が効率化された」「電話の回数が減った」などの声が挙がっているそうだ。
榎本氏はプロダクトの活用を通して、医療従事者が本来の業務に集中できる環境をつくりたいと語る。
榎本医療介護従事者の方のコア業務は、患者一人ひとりと向き合い、治療のみならず、その後のケアや生活の方向性を決めていくことだと考えています。
自動化できる部分はソフトウェアで自動化し、医療従事者の方々が一層価値を発揮できる環境づくりを担いたいです。
これまでは入退院の調整業務に特化してプロダクトを磨いてきたが、今後は予約管理や受付業務、患者さんとのオンラインコミュニケーションなど、病院における業務全般に必要な機能を実装していく予定だ。
榎本全国に約8000施設の病院がありますが、その半数が赤字と言われています。入退院の調整業務などを効率化することで、病院が医療の質を下げることなく、十分な利益を上げられる状態をつくりたい。また、今は病院と病院の連携に絞っていますが、今後は病院と地域のクリニック、介護施設の行き来におけるフローも円滑なものにしていきたいです。
それによって、マクロなミッションとして医療費や社会保障のコスト削減も見据えています。
フルスタックのSaaSを目指していくと語る同社。「絶賛採用募集中です。少しでもご興味ある方はカジュアルにご相談ください」と参加者に呼びかけた。
採用情報
ツクリンク
建設業界の構造を変え、日本を豊かにする
続いて登壇したのは、建設業向けマッチングプラットフォーム『ツクリンク』を開発・運営している、ツクリンク代表取締役社長の内山達雄氏。
内山氏は鳶職人として5年ほど現場を経験した後、営業兼施工管理を10年、合わせて15年ほど建設業に携わった経歴を持つ。その後、IT業界に関心を持ち、起業する経緯を次のように語る。
内山まずはアフィリエイトに興味を持ち、独学で勉強をしたら、ある程度うまくいきまして。IT業界の仕組みが面白いと思うようになりました。
ちょうどその頃、家入一真氏が抽選で当たった3名と共同起業するという、変わったイベントを開いていて、面白そうだと思って応募したんです。残念ながら抽選は落ちてしまったのですが、それがきっかけで、ツクリンクの前身となる会社を立ち上げるにいたりました。
同社の展開する『ツクリンク』は日本最大級の建設業ネットワークから、元請け会社・協力会社を探せるマッチングサービスだ。
利用者は、掲載されている協力会社募集・元請会社募集から、条件にあった取引先を探し、メッセージを送れる。打ち合わせを行い、契約に同意すれば成約となる。
安心安全に利用できるよう、認証制度を設け、事業者の建設業許可の有無や保険加入状況などを把握し、悪質な会員はブラックリスト化するなどプラットフォームとしての健全性を保てるよう徹底排除に努めている。また、発注者の不払いや倒産などに備え工事代金を保証するサービスも用意しており、当サービスは建設業全体で安心な取引を推奨していくために取引先がツクリンク会員以外の場合でも利用できるような仕組みとなっている。
内山氏はマッチングサービスを通して「多重下請け構造を改善し、健全に働ける仕組みを作りたい」と語る。
内山建設業界ではおよそ300万人の方が働いていますが、そのうち3分の1は55歳以上、次の数年で、およそ100万人いなくなるという予測もあります。若者が積極的に関わりたくなるような、魅力的な業界にしていかないといけない。
ですが、現在は多重下請け構造により、職人の方が労働に見合う対価を受け取れていない状況です。ひどい事例では、元請企業には一人あたり10万円を支払っているのに、現場で働く職人の方は6000円しか支払っていないといったこともあります。
こうした構造になる要因の一つとして同業者のネットワーク不足があります。狭い商圏で顔を合わせて商売をするので少し離れた業者の状況がわからない。
私たちがそれぞれの建設事業者の稼働状況を可視化し、直接つながり、マッチングできるよう促し、構造を改革していきたいです。
最後に、内山氏はミッションである「産業構造を変え、豊かな未来をつくる」について、想いを共有した。
内山私は建設業の未来に不安を感じてIT業界に転身したものの、優秀な方が多く自分は敵わないと感じていました。
そこから少しでも自分が関わっていた人を幸せにできればと思い、建築業向けのサービスを立ち上げたのですが。IT業界側からあらためて建設業界を見直すと、建設は身近なものであり、誇りを持てる仕事だと痛感しました。日本においても大切な存在だからこそ、業界構造を変革したい。自分たちの家族や将来を含め、未来を豊かにしていきたいです。
今後もさらなる拡大を目指す同社。「全方位で募集中ですので、ぜひご興味あればお声がけください」と語り、ピッチを締めくくった。
採用情報
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年10月04日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
編集
辻野 結衣
1997年生まれ、東京都在住。関西大学政策創造学部卒業し、2020年4月からinquireに所属。関心はビジネス全般、生きづらさ、サステナビレイティ、政治哲学など。
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