PdMへ贈る、悩んだときに読みたい「7つの名著」──活躍する現役プロダクトマネジャーおすすめの書籍リスト
「事業は人なり」経営の神様とも称される松下幸之助の言葉だ。事業を創るのも、会社を大きくするのも、そこには「人」がいる。そんな「人」に焦点を当て、次代を担う若きイノベーターたちをピックアップ。成長のエッセンスをお届けする。
これまでの3回では、注目の若手PdMを厳選してご紹介したり、会計やオペレーションなど「スタートアップ経営」に役立つ情報発信を行っているプロフェッショナルや、ベンチャーにおける若手マネジャーの悩みを解消してくれる方々をピックアップさせていただいた。
ロールモデルやイノベーターの思考を日常的にインプットすることは非常に重要だ。上記で取り上げたプロフェッショナルをぜひフォローしてほしい。同様に、体系化された学びや時を経ても価値の変わらない先人の教えも我々を飛躍させる原動力となる。今回は、プロダクトマネジャーとして頭一つ抜けた活躍を目指すFastGrowerに、ワンランク上の視座を手に入れることができる書籍を贈る。
まずは抑えておきたいプロダクトマネジャーの必読書
プロダクトマネジャーは特定の職能やスキルで評価することが非常に難しい役割の一つだ。エンジニアリングからマーケティングやセールス、組織マネジメントに採用、時には広報業務もカバーする必要がある。企業によっても求められる要素は異なり、少なくとも「これができれば合格」と言える指標はないだろう。
幅広い領域への理解、膨大なインプットが求められ、当然ながら思考もアップデートし続ける必要がある。そんなプロダクトマネジャーに、新しい視点を手に入れるヒントとなる書籍を7つ紹介する。その前に、「定番」といえる書籍についても簡単に触れておこう。
昨年の発売にも関わらず非常に評価が高く、「プロダクトマネジャーの教科書」と評する方も多くいる「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント」。GAFAをはじめ、NetflixやAdobeなどアメリカを代表するテック・カンパニー流のプロダクト開発を体系的にまとめた良書だ。また、一般社団法人日本CTO協会理事も務める広木 大地氏による「エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング」もその内容の厚みに驚く。
社内のエンジニアが教えてくれて読んだ「エンジニアリング組織論への招待」という本、全章で感銘を受けすぎて要約ツイートとかできない、、!
— 鈴木 晶子/Shoko Suzuki (@shokosuzuki1991) April 1, 2018
一章ごとに一冊の本にできるレベルの内容の濃さ。学びがありすぎて全ページ脳内にインストールしたい。とりあえず「不確実性」って切り口が天才。 pic.twitter.com/Zfn34G7CZt
プロダクト開発にも様々な方法論が存在するが、顧客の本質的なニーズを理解したいのであれば「ジョブ理論」は読んでおく必要があるだろう。また顧客理解という観点で、行動経済学というアプローチもプロダクト開発では一般的だ。
プロダクトを成長させるためにはより多くの顧客に届ける必要がある。つまりマーケティングに関する知識も必要になるわけだが、そんなときに役立つのが以下の2冊だ。
心理学的経営 個をあるがままに生かす
プロダクト開発全体を統括するプロダクトマネジャー。一人ひとりのメンバーが能力を最大限発揮し、チームとしてワークするよう組織をつくるのも数ある役割の中でも大きな要素の一つだ。そして「個を活かす」マネジメントに興味があるならば本書を手にとってほしい。サイバーエージェント曽山氏も「ずばりすごい本です」と唸る不変の名著だ。
著者の大沢 武志氏はリクルートの創業メンバーであり、創業者である江副 浩正氏のもとで専務取締役も務めた。また同氏は「適性検査SPI」の開発者としても知られている。モチベーションの仕組み、フィードバックの構造、そして組織づくりに欠かせないリーダーシップなど、まさに時の流れにも淘汰されない不変的な学びが詰まっている。
理系特化の就活サービスを提供するPOLにてPdMを務める田中氏や、複数社で取締役を兼任するエキサイト取締役CFO石井氏も絶賛する。
遅れながらも大沢武志さんの『心理学的経営』を読んだのだが、「個を生かす」という組織づくりを1993年にここまで体現して研究していたのかと感心。リクルートが強く居続ける理由が分かる。
— 田中達規 | POL プロダクトマネージャー (@tatsunori0823) August 24, 2020
サイバーエージェントの曽山さんがブログでも書かれていた「心理学的経営」を読了。27年前の本だが、個人・組織に関する普遍的な真理が書かれており学びが多い。企業再生では、組織や個人の活性化というところが本当に難しく、失敗もしてきたので、参考にしながら良い組織を作っていきたい。
— 石井雅也@エキサイト取締役CFO (@MasayaIshii1) August 29, 2020
グロースハックに関する情報発信で広く知られるMESON代表の梶谷氏も内容を絶賛、簡潔なまとめもしてくれているので、本書が気になっている方はまず同氏のツイートを見てみよう。
リクルート初期の組織制度をつくりあげた人が書いた「心理学的経営」という本が名著すぎたので内容まとめた。心理学的研究で得られた知見を実務にどう落とし込んで組織をデザインしていくかが非常に分かりやすく書かれている。四半世紀前に書かれた本なのに、全く古さを感じさせない超骨太な一冊。 pic.twitter.com/pjxY9ebyWf
— KAJJ / MESON CEO (@kajikent) September 26, 2019
あなたが本書を読む理由
- リクルート創業メンバーの1人、あの「SPI」を開発した大沢氏による「個を活かす組織づくり」のナレッジが満載
- 組織とメンバーはどうすれば活性化するか?人間心理から紐解く、仕事に対するモチベーションの公理を知る
- トップだけでなくメンバーにも必要な「リーダーシップ」。必要な素養と具体的なアクションまで網羅
「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論
トヨタの「主査制度」を知っているだろうか?実は、我々がシリコンバレー流と認識しているプロダクト開発の”源流”となったシステムだ。本書はそんなトヨタを例に、「新たに価値を創造し、利益を生み出すことができるタレント」と、彼ら彼女らが活躍できる組織・制度設計について説いた内容となっている。
GMOペパボ取締役CTOの栗林氏や、エン・ジャパンにてPdMを務める岡田氏も薦める1冊だ。
この酒井さんの本はプロダクトマネージャーについて知りたい人が読むと良いかも。 / “トヨタに学ぶ 「滅びる組織」「伸びる組織」 売れ続ける秘密は「SHUSA」にあり! | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)” http://t.co/9XiawlveKy
— Kentaro Kuribayashi (@kentaro) August 3, 2015
TOYOTAの組織論を通じて、才能ある人材(タレント)を組織で活かすこと。その事が企業の繁栄と存続にいかに重要かを痛感する本だった。マネジメント層は読むべき本。/「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 https://t.co/1Q0WAHCBSE
— オカダヤスヒロ(岡田康豊) | Product Manager (@middleOkada) January 1, 2019
そもそも「主査制度」について知らない読者は、「ドキュメント トヨタの製品開発」も併せて読むと良いだろう。効率化を目的とした「トヨタ生産方式」は広く知られているが、実は利益の95%は設計情報を創造している開発段階にあり、その肝が「主査制度」だという。
あなたが本書を読む理由
- AppleやGoogleも参考にしたというトヨタの「主査制度」。現代のプロダクトマネジャーの型をつくった源流から学ぶ
- 求められるのは、プロフェッショナルやスペシャリストを超えた「それ以上の人材」
- 才能あるタレントを活かし、永続的に価値創造できる組織づくりを目指すなら必読の1冊
良い戦略、悪い戦略
どれだけたくさん努力をしても、その方向性が間違っていては良い成果は得られない。事業やプロダクト開発においても同様だ。つまり、「良い戦略」でプロダクトを成功へと導くのも、プロダクトマネジャーの重要なミッションの一つといえる。
戦略論と経営理論の世界的権威であるリチャード・P・ルメルト氏による本書は、そんな自身の描く戦略の良し悪しがダイレクトに事業に影響するPdMにこそ、読んでほしい一冊だ。
本書の特徴は、取り扱う実例の多さだ。ビジネスや経営に関するトピックだけではなく、戦争や政治などの実例も交えている。本書を参考にしている経営者も多く、メルカリ創業者の山田 進太郎氏も「特にスタートアップに関わるひとには必読」と記しており、現在進行形で経営に役立てていることもブログから伺える。
すぐに役に立つことも多かったですし、まさに今、中期経営計画を更新しているところでもあり、活かしていきたいと思ってます。
先日公開した注目のPdM記事でもピックアップさせていただいたドクターズプライム高橋氏も、本書を薦めている。
ちなみにこの本、@suadd こと我らが山田進太郎御大がそのブログにて勧められていたことで知り、そのメルカリに19歳でインターンとして入り今やノーコード革命の旗手、@yuzushioh から激烈にマジで良いとお勧めされて読んだ本でして、凄まじく良いです。#良い戦略悪い戦略https://t.co/ivq2kQKlpR pic.twitter.com/WsM3jXI1eO
— きょすーけ | Dr.’s Prime (@kyosu_ke) August 19, 2020
あなたが本書を読む理由
- 大手IT企業の経営戦略から政治、戦争まで。取り扱われる実例の多さは、メルカリ山田氏も太鼓判を押す
- 「意味のない努力」をしないように。プロダクトの成否を左右する「戦略」を学ぶ
①ゲーム界のトップに立った天才プログラマー 岩田聡の原点: 高校同期生26人の証言
②岩田さん: 岩田聡はこんなことを話していた。
続いては、2冊併せてご紹介したい。書籍自体の魅力も当然ありながら、題材となっている岩田 聡氏こそプロダクトマネジャーであればロールモデルとして参考にしたい人物の1人と言えよう。10X創業者の矢本氏も「プロダクト型経営者の完成形だ」と表現し、エムスリーにてPdM兼事業責任者を務める西場氏も「岩田さんは私が思うPdMだ」と絶賛する。
短いインタビューだけど、任天堂 故岩田社長こそプロダクト型経営者の完成形だと思うので頑張っていきたい。
— Yamotty | 矢本真丈 (10X) (@yamotty3) March 7, 2019
・多くの人にとっての不可能をやる
・スキルを研ぐ
・質量無制限に努力できることに集中する
ご褒美回転て、いい言葉だな! pic.twitter.com/04qzslj4pQ
岩田さん: 岩田聡はこんなことを話していた。を読んでいて、バカもん!と言えれる相手と、腫れ物に触るように叱る必要がある人がいる、という話はよく分かる。私は前者でいるための努力が必要だと常日頃思っているが、なかなか難しい。 https://t.co/UFA5ZuKMLP
— nishiba (@m_nishiba) August 23, 2020
42歳という異例の若さで任天堂の代表取締役社長に就任。あの「ニンテンドーDS」や「Wii」などは、岩田氏が社長を務める間に爆発的な大ヒットを記録。天才ゲームクリエイターとしても知られ、自身を「社長であり、ゲーム開発者であり、ゲーマーだ」と語っていた。そんな同氏のクリエイティブへの思いや哲学、経営理念は、プロダクトマネジャーとして見習うべきポイントが凝縮されている。
あなたが本書を読む理由
- 極めて論理的でありながら、人を動かす人柄の良さも兼ね備えていたという。その岩田氏を「まわりで見ていた人」が執筆したのが、この2冊だ
- 「ニンテンドーDS」や「Wii」で、ゲームを大衆化させた功績。そこに隠れるプロダクト開発の本質
- PdMとしても経営者としても、ロールモデルにしたい人物
隠れたキーマンを探せ! データが解明した 最新B2B営業法
残り2冊は別の視点からピックアップ。B2Bプロダクトに携わる方には本書をおすすめしたい。一見すると、プロダクト開発にはあまり関係のないセールス向けの実務書に思えるが、導入プロセスや体験設計を行う上で参考となる重要なエッセンスが隠されている。
モビライザーと呼ばれる「隠れたキーマン」、つまり商談をスムーズに成約に繋げるために味方につけたい担当者をどのように見つけるかを解説している本書。意思決定には平均5.4人が関与し、なんと57%が実際に営業担当に会う前に離脱しているという。そのような購買プロセスを理解し、プロダクトに落とし込むというアプローチも有効といえそうだ。
ベルフェイスにてグロースハック/PdMを務める石田氏や、ペイミーにて事業責任者を務めている仲川氏もnoteにて本書を紹介している。以下のような内容から、プロダクト開発の現場で活用できる学ぶが得られるかもしれない。
- BtoBソリューションの購入判断には平均5.4人が関わる
- 顧客関係者は、7つのタイプに分けられる
- モビライザー(顧客が上手に購買活動するための「隠れたキーマン」のこと)を見つけ、接するべし
- モビライザーには攻略法がある
あなたが本書を読む理由
- セールスを担当している方だけでなく、プロダクト開発に携わっている方に知ってほしい「顧客の体験設計」
- 隠れたキーマンを見つけ、スムーズに導入してもらうためのヒントに
「R25」のつくりかた
FastGrow読者の中で、「新R25」を知らない方は少ないだろう。最後に紹介したい書籍は、その前身となる「R25」の創業物語だ。
リクルートと電通の合弁企業・Media Shakersが2004年に創刊。M1層と言われる、25歳から34歳までのビジネスパーソンを対象としたフリーマガジンだ。当時、首都圏の主要鉄道駅、コンビニエンスストア、大型書店のスタンドで無料配布するという大々的な手法をとり、若手ビジネスパーソンからの圧倒的支持を得た。
そんな若手ビジネスパーソンの間に一大ブームを生み出した「R25」。創刊当初にどのようにインサイトを探り、プロダクト開発を行ったのかを実際のエピソードとセットで理解できるのが、本書となっている。
「インタビューでユーザーはウソをつく」「定量調査ではターゲットのインサイトは発見できない」「ユースケースや利用シーンが重要」といったノウハウを聞いたことはないだろうか?本書では、それらの学びを実体験ベースで得ることができる。読み物としても面白いものとなっているので、ぜひ手にとってみてはいかがだろうか。
今読んでる「R25のつくりかた」めっちゃ面白い。インサイト発見を生業としてる人におすすめ。
— すずきりょう (@stvjbz) May 16, 2020
200人以上のM1層とあって、M1層のイタコ化した話を読んでると、自分ももっとユーザー理解を深められるなと気付かされる。 pic.twitter.com/4KhctN83cw
あなたが本書を読む理由
- 読者から「自分を見透かされている」とも言われていたR25のインサイト発見は、PdMとして身につけたい素養
- 「R25の一つのエポックは『帰りの電車で読んでもらう』という”シーン”にフォーカスをしたこと」といった具体的なエピソード・ナレッジが満載
「#私の推し本」、教えてください!
いかがだっただろうか?イノベーション・エコシステム発展のため、そしてベンチャーパーソンである皆さまに少しでも多く新しい学びをお届けするため、今後も「ベンチャーのプロフェッショナルから学ぶ」ことにフォーカスした情報を発信していく予定だ。
そしてぜひ今回紹介した書籍を気に入ってもらえたら、「#私の推し本」を付けてTwitterでツイートしてほしい!もちろん今回紹介していないものでも、PdMやスタートアップ・パーソンにとって学びになるようなおすすめ書籍があれば、「#私の推し本」とともに紹介してくれると幸いだ。
こちらの記事は2020年09月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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11記事 | 最終更新 2022.05.19おすすめの関連記事
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