ホテル業界のDXソリューション、不動産エージェントのマッチングプラットフォーム。
インキュベイトファンドが投資する注目スタートアップが登場──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。今回は創業期のスタートアップを中心に、起業家にとっての「最初かつ最大の応援団」として、積極的な経営参画と多面的な支援を実施しているインキュベイトファンドとのコラボレーション企画。同社が投資する企業が集結した。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社SQUEEZE、株式会社TERASSの2社(登壇順)だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
株式会社SQUEEZE
ホテル業界をDXする宿泊運営システム
最初に登壇したのは、SQUEEZE代表取締役CEOの舘林真一氏。同社は、ホテル業界に特化したDXソリューションを開発・運営している。
同社の提供ソリューションは4つあり、中でも主要なプロダクトはクラウド宿泊運営システム『suitebook』だ。フロント業務や予約管理、売り上げ管理、清掃管理などを一つのシステムで行え、外部のシステムとの連携にも対応している。宿泊施設の運営にかかわる業務を一元管理し、業務効率化を実現する。
舘林ホテル業界において、宿泊者側ではオンラインブッキングサービスからの予約が一般化することで、デジタル化が進み、利便性が高まっています。
一方、ホテル側のオペレーションはアナログな部分が残っている。紙で顧客情報を取得するチェックインなどのフロント業務、客室清掃の管理などは効率化の余地が大きいと考えています。
システム事業に加え、ホテルのクラウド運営事業も展開している。チェックインや予約登録などのフロントのルーティン業務を部分的にSQUEEZEグループのオンラインチームが代行し、ホテル従業員の負荷を軽減する。「人にしかできない、より付加価値の高い業務に時間を割けるようにしたい」と舘林氏は語る。
さらに、直営ブランドのアパートメントホテル『Minn』やシアターとホテルをコンセプトにしたホテル『Theatel』も運営している。自社システムを自身が積極的に利用することで、そこで得た気づきやナレッジをシステムの改善に活かし、サービス全体のPDCAを素早くかつ効率的に回している点が特徴だ。
舘林氏は、新卒でゴールドマンサックス証券シンガポール支社に入社。その後、トリップアドバイザーのシンガポール支社にてディスプレイ広告の運用を担っていた。
ホテル業界で起業した背景には、前職での経験に加え、舘林氏の家族が賃貸マンションを経営した際の経験があったという。
舘林経営していた賃貸マンションのなかで、空室の活用に困っていた物件があったんですね。そこで、当時は今ほど普及していなかったAirbnbに部屋を貸し出したところ、次々に予約が入りました。
空間の持つ価値は、どこで、誰に貸すかによって大きく変わる。そこに面白さを感じ、不動産・ホテル業での起業を考えるようになりました。
その後、インキュベイトファンドのジェネラル・パートナー本間真彦氏と壁打ちを行い、2014年にSQUEEZEを創業した。
ホテル事業の損益分岐点を下げるクラウド運営ソリューションが認められ、不動産大手企業やデベロッパー企業とスマートホテルを展開してきた。
また、昨今では提供ソリューションの一つである「DX推進アシスト」の引合いが増加している。同社の持つノウハウをコンサルティングサービスという形で外部提供し、クライアント企業の課題・ニーズに合わせたソリューションの提供やシステム開発を行っている。
2020年には「JR東日本スタートアッププログラム」にも採択され、JR東日本との協業を発表。MaaS×ホテルの領域で実証実験に取り組んでいる。
舘林将来的には、JR東日本グループの交通情報と宿泊情報を連携させ、より便利な体験を実現したい。例えば、宿泊者が最寄り駅の改札を出ると、宿泊施設の電気やエアコンが自動で作動し、最適な環境を整えておいてくれる仕組みなどを検討しています。
ホテル業界におけるテクノロジー活用やオペレーション構築のノウハウを活用し、スマートシティにも取り組んでいきたいと展望を語る。「業界を変革していくのは試行錯誤の連続なので、一緒にチャレンジできるエネルギッシュな方を募集しています!ぜひご興味ある方はお話させてください」とピッチを締めくくった。
採用情報
株式会社TERASS
不動産エージェントが“個人”で活躍できる家探しプラットフォーム
続いて登壇したのは、家探しマッチングプラットフォーム『Agently』を開発・運営するTERASS代表取締役CEOの江口亮介氏だ。
江口氏は、新卒でリクルートに入社し、SUUMOの広告企画営業として、約100社以上の不動産ディベロッパーを担当。商品の戦略策定や営業推進、新商品開発などにも携わった。
不動産業界で経験を積むなかで、業務や働き方の課題を感じることも多かったと江口氏は語る。
江口紙書類やFAXが利用されているといったオペレーションはもちろん、働き方全般にも課題があると感じていました。
例えば、新卒入社した不動産エージェントが深夜にポスティング業務を行っている。業績を上げるよう強いプレッシャーをかけられる職場では、顧客に貢献するよりも、いかに多くの不動産を仲介するかを優先してしまう。業務負荷も高く、本質的に顧客に良い体験を届けられないため、顧客志向の優秀な従業員の離職率も高い。
こうした働き方の背景には、不動産取引のあり方自体に問題があると捉えています。TERASSでは不動産業界のDXによって、取引をより良いものに変えていきたい。
住宅取引をめぐる負を解決するために、TERASSは不動産を探すユーザーとエージェントをマッチングするプラットフォーム『Agently』を展開する。
家探しを行うユーザーは、希望条件を登録するだけで、匿名で不動産エージェント側から物件情報を受け取れる。気になる不動産エージェントとは、直接、スムーズに内覧日程を調整できる。
また、不動産エージェントは希望条件をもとに、見込みの高い顧客に直接声をかけられる。
ポスティングや見込みの薄い問い合わせ対応よりも効率的に、自社の強みとマッチする顧客と出会えるという。主にマッチングが成立した時点で成約課金が発生する仕組みのため、個人や少人数の会社でも始めやすい。
不動産会社ではなく、個人の不動産エージェントとユーザーをマッチングすることで、エージェントの働き方をアップデートしたいと考えている。
江口多くの不動産エージェントは、会社や店舗などに所属して働いています。もちろんそれがダメという話ではないのですが、もう少し個人で自由に働く選択肢があっても良いのではないかと考えています。
そのために必要なのがIT化です。不動産エージェントがリモートでも問題なく業務を行えるようにする。煩雑な業務を減らし、顧客と向き合えるようにする。そうやって不動産エージェントの働く体験をより良くすることが、業界全体の課題解決にもつながると考えています。
TERASSには現在42名の不動産エージェントが所属し、不動産取引を行っている。通常は売上の約20〜30%が不動産エージェントの収入となるが、Agentlyでは売上の約75%が収入となる。
不動産エージェントのなかには、週2、3日ほど働くだけで十分な収入を得ている人や、不動産領域のYouTuberとして活躍している人もいるという。「これまでは実現できなかった新しい不動産エージェント像が現れています」と江口氏は語る。
TERASSは2021年3月9日に、グロービス・キャピタル・パートナーズ、インキュベイトファンド、三菱UFJキャピタルの3社からシリーズAラウンドで2.2億円の資金調達を終えたばかりだ。
「3年後には、500人の不動産エージェント確保を目指しています。まだまだ人手が足りない状況ですので、ご興味ある方はぜひ気軽にご連絡ください」と呼びかけた。
採用情報
記念すべき第39回目となったこの日は、ホテル業界や不動産のDXの取り組む企業が登壇した。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年04月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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