糖尿病患者向けミールリプレイスメント、“呼び出し”から店舗業務を効率化するSaaS、新領域を拓くスタートアップが登場──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、Teatis Inc.、WASD株式会社の2社(登壇順)だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
Teatis Inc.
糖尿病患者の食生活をサポートするミールリプレイスメント
最初に登壇したのは、糖尿病患者向けミールリプレイスメント『Teatis』を開発・販売しているTeatis代表取締役CEOの高頭博志氏。
高頭氏は連続起業家でありエンジェル投資家としても活躍する人物だ。2014年に、国内初のアド不正検知サービスを開発するMomentumを設立。2017年にKDDIに事業を売却、グループ傘下にジョインしながらエンジェル投資家として活動していた。そして今回2021年6月に米国でTeatisの創業に至る。
Teatisが扱うミールリプレイスメントとは、食事の代替品となる栄養食だ。糖尿病患者向けのミールリプレイスメントに着目した背景について、高頭氏は「妻が食事療法に取り組むなか、患者の食事セルフケアには、多大な労力が必要と感じた」と語る。
高頭癌を患っていた妻は、抗癌剤治療を受けながら食事療法による完治を目指していました。妻と一緒に決めた食事療法を守りながら、バランスの良い食事を毎日用意する。献立を考え、買い出し・調理・片付けに追われる日々を送っていました。
忙しくされている患者の方が食事のセルフケアを行うには、非常に労力がかかる。ここに課題があると感じ、起業に至りました。
糖尿病を選んだのは「圧倒的な課題があるから」だという。現在、アメリカでは糖尿病患者および予備軍が約1.2億人に存在している。特に20から35歳の若年層を中心に増え続けており、今後も継続的な課題になると見込まれる。
また、糖尿病2型の患者が食事でセルフケアを行うには最大4時間の時間を要するだけでなく、調理スキルまで求められるというデータもあるそうだ。
高頭氏は、リーンにプロダクトを開発する手法を採り、まずは製造しやすいスーパーフードのパウダー商品から着手した。血糖値を抑えるという臨床結果のある成分を配合、抹茶味とジンジャー&ターメリック味の2種類を開発。「プロダクトを通して臨床データと同じ血糖値の結果が得られるか」「実際に糖尿病患者が買いたいと思うプロダクトになっているか」の2つの仮説検証を実施した。
高頭食前と食後の血糖値を測定すると、実際に臨床データ通りの結果が見られました。また、これまでアメリカのユーザー約2000名に購入いただき、血糖値の抑制ができていると多くのレビューをいただいています。
さらに、プロダクトのユーザーに電話でヒアリングを行ったところ、多くの患者が「薬以外の生活習慣を変えたくて、多くの行動療法を試したが続かなかった。だからこのプロダクトを手にとった」という声をいただきました。想定していた課題は正しかったのだと自信を持てました。
8月には、糖尿病患者向けのカカオ味のパウダー飲料をローンチ予定だ。砂糖は不使用で、脂質はMCTと呼ばれる分解されやすい脂肪酸を使用。また、食後の血糖値を抑制するために海藻由来の原料を配合している。
高頭アメリカでは完全栄養食マーケット全体で1.5兆円あります。しかし、多くのプロダクトが一般の消費者向けにつくられていて、糖尿病患者向けのものは少ない。私たちは糖尿病の方に向けて、プロダクトを作り込んでいきたいと考えています。
すでに2021年6月30日にエンジェルラウンドで約4000万円の資金調達を終えたばかりの同社。シードラウンドの調達に向けて興味のある投資家がいれば、ぜひお話したいと語る。
「糖尿病患者が、食のセルフケアに対して簡単にアクセスできる社会を作っていきます」と語り、ピッチを締めくくった。
WASD株式会社
スタッフの呼び出しをデジタル化し、顧客体験を進化させる
クラウドチャイム
続いて登壇したのは、店舗オペレーションのDXを促進するSaaS『デジちゃいむ』を開発・運営している、WASD代表取締役CEOの盛島昇太氏。
『デジちゃいむ』は、店舗に来店したお客様が、スタッフを探したり、呼び出したりする手間を解決するオンラインサービスだ。盛島氏はこれを「“すぐに店員さんに頼りやすい”を構築するSaaSである」と形容する。
来店客は、店舗内に設置されたQRコードを読み取る。立ち上がったWebブラウザで、「売り場がわからない」「在庫が知りたい」「相談したい」など複数の項目から目的に合わせてボタンを押すだけ。
スタッフはデバイスからプッシュ通知を受け取り、来店客のもとに駆けつける、あるいはチャットや音声、ビデオ通話などを通じて遠隔接客できる。QRコードの発行は無制限のため、必要に応じて店舗内に複数設置できる。
また、来店客がいつ・どこで・どのタイミングで呼び出しを行ったという履歴が残る。接客対応を可視化し、業務改善にも活かせる。
リリースから10ヶ月、2021年7月時点で導入店舗数は250を超えた。
盛島タイトーやバンダイナムコなど全国のアミューズメント施設の他、国内外の大企業に利用いただいています。弊社で働く13人のメンバーうち、5人がプロのゲーマーです。その影響もあって、アミューズメント施設の導入が多くなっています。
解約も新型コロナウィルス感染症の影響で1店舗だけありましたが、その他は0件に抑えられています。
盛島氏は、大学生時代にゲームセンターで4年間接客のアルバイトに携わった後、新卒で大塚商会に入社。日本オラクルに転職し、小売・サービス業の大企業に向けたSaaS型基幹システムを担当。バックオフィスのみならず、接客現場にも課題があると気づき、WASDの創業に至った。
盛島お店に行って、スタッフが見つからなかったり、忙しそうで声をかけるのをためらったり。あるいは実際にスタッフに話しかけても「詳しい者を連れてきます」と言われ、たらい回しにされてしまったりした経験のある人は、少なくないと思います。
もちろん、店舗も課題は認識しているのですが、採用難や人件費の限界など、様々な要因で実現できていないことが多い。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響もあります。スタッフに声をかけるのを躊躇ってしまう人は、今後も一定数いらっしゃるでしょう。小売は今までとは異なる課題にも向き合わなければいけない。
ITを駆使するにも、店舗での接客はリアルタイムで行うため、デバイスを持ち歩いて、バリバリ活用するのは難しい面もある。デジちゃいむでは、これらの課題を解決していきたいと考えています。
実際に導入した店舗では、売上や接客の質だけでなく、スタッフのエンゲージメントなどの向上にも、貢献できているという。
盛島来店客は手持ちのスマホから喋らずに要望を伝えられるので、呼び出すための心理的なハードルが下がる。
呼び出しが増えると、スタッフは事前に来店客の求めていることを把握できるようになります。適切な接客を行えるため、来店客の満足度が上がる。
さらにその様子を見て、スタッフも「良い接客ができた」と接客の楽しさを感じ、エンゲージメントが高まっているようです。
さらにサービスに慣れるに従って、業務全体のデジタル化、効率化も促せるのではないかと盛島氏は語った。
「意思疎通をもっと便利に」をミッションに掲げ、コミュニケーションのあり方をアップデートする同社。「長期インターンを募集しています。ミッションに共感いただける方はぜひご応募ください」と盛島氏は参加者に呼びかけた。
採用情報
記念すべき第51回目となったこの日は、糖尿病患者向けのミールリプレイスメント、店舗オペレーションDXが登壇した。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年08月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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