連載Growth Human Capital Summit
1on1で何を語る?
メンバーの「本当の思い」を汲み取るフィードバック文化とは
シリコンバレー式のマネジメント手法として注目を浴びる、部下と上司が1対1で定期的に行なうミーティング「1on1」。部下が上司に対して業務上の課題や悩みを伝え、上司がフィードバックする機会を指す。
最小人数で業務を振り返ることで、部下の内省による成長と、最終的には社内のコミュニケーション活性化につながることが期待できる。
コーチングや人事向けサービスを手がけるビジネスコーチの調査結果によると、1on1は日本でも導入が進んでいるが、習慣化にもマンネリ化にも課題があり、運用に苦労している企業も多いという。
ソーシャルヘッドハンティングサービス「SCOUTER」やクラウド求人データベース「SARDINE」を提供する株式会社SCOUTERは、創業期からフィードバックの仕組みをつくるHRサービス「TeamUp」を活用し1on1を導入。個人の成長支援を組織文化として定着させている。
FastGrowが2018年9月に開催した、ベンチャー企業経営者・人事責任者向けイベント「Growth Human Summit」では、SCOUTERのCOOである山田浩輝氏と、経営企画・人事を担当する近藤研吾氏に、TeamUp社の中川絢太代表のファシリテーションのもと、「個人の成長につながる1on1」について語ってもらった。
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
SCOUTERが1on1を導入した2つの理由
SCOUTER社が提供するSARDINEは、サービス上に掲載されている1,000社以上の求人に対して、中小規模の人材紹介会社が転職者を紹介することが可能となる。成約時の紹介料を100%受け取ることができ、2018年5月に正式リリース後、累計100社以上が利用している。
同社では創業期から1on1に取り組んできたという。メンバーのメンタルケアやガス抜きといった理由ではなく、「成長支援」という目的を強く意識している。
近藤月に1回1時間を取って、人事担当者である僕と、経営者も含めた約15名の全員が面談を実施しています。メンバーとマネジメント層、そして経営陣それぞれの課題感や問題意識を、細かく聞いていくようにしています。
全員に共通して聞いているのは、前月の目標に対する達成度や健康状態・心理状態などです。一通り決まった質問をした後、より深掘りして話を聞いています。
山田1on1の導入には、2つの理由があります。1つ目は、「メンバーそれぞれに自身の市場価値を考えてほしい」という思いです。SCOUTERでは「経営層とメンバーは対等」というスタンスを取っています。メンバーには、労働市場における自分自身の価値を考え、会社に頼らずに生きていけるような人材になってほしいのです。ただ、一人でそれを考えるのは難しい。だから、経営や人事からフィードバックを伝えることで、自身の強みを考えるきっかけになればと。
山田2つ目は、「経営層と現場の信頼関係回復」です。社員が増えて、事業が複数に増えた頃に、経営層と現場のコミュニケーションが少なくなってしまいました。「社長が何を考えているか分からない」「自分たちの思いが経営層に伝わっているかが分からない」という声が社内でよく聞かれるようになったんです。そこで、経営層と現場の信頼関係を取り戻すために生まれたのが1on1でした。
こうした背景があり、SCOUTERは経営層でなく、人事担当者の近藤が1on1を実施しています。メンバーが経営層に対して100%の本音を伝えるのは難しいからです。経営層は、メンバーの人事評価をしていますし、一言で彼らの異動ができてしまう。そうすると、メンバーも本当の思いが伝えられないのではないかと考えて、近藤をアサインしました。
必要なのは「面談前の準備」と「経営陣からのコメント」
次に、1on1を実施する上での注意点について、近藤氏が語った。
一般的には「傾聴力」や「話を引き出す力」が求められると言われる。しかし、近藤氏は「1on1に入る前の準備」が大切だという。
近藤2つのポイントを意識しています。1つ目は、1on1を始める前にどれだけ情報収集ができるか。2つ目は、相手に対してどれだけ信頼関係を作り、自分に本音を伝えてくれるようにするかです。例えば、メンバーのSNSを見て、彼らがどんなことに取り組んでいるか、どんなことを考えているのか把握するようにしています。
月1回はメンバーと飲みに行ったり、誘われたときには断らないようにして、コミュニケーションを増やしています。難しいことではありませんが、地道な作業ですね。1on1の場に至るまでに、いかに本音を話してもらえるようにするかが大切です。
近藤私たちの場合は、メンバーに了承を取ったうえで、経営陣に1on1のログを開示してフィードバックをもらうこともルール化しています。彼らにとっても経営陣からフィードバックをもらう方が、やりがいにつながりますよね。
山田メンバーのモチベーションが高まるのは、1on1をしているときではありません。経営陣からのコメントこそが、モチベーションを高めるのに有効だと思っています。社長からの「頑張っているね」という言葉で、メンバーは救われているのではないでしょうか。
また、自分自身の市場価値を論理的に説明してもらえる機会は貴重なものです。近藤が引き出したメンバーの理想に対して、今足りないポイントはどこか、理想に近づくためにどうしたら良いのかを経営陣は意識的にフィードバックするようにしています。
これからのマネージャーに、1on1は必須の能力
最後に、1on1におけるマネジメントの課題と今後の展望について伺った。
近藤メンバーが増えて、僕一人では回らなくなってきたというのが現状です。いかに質を下げずに続けていくかが、今後の課題だと考えています。そのためにも、人事が積極的に社内イベントなどコミュニケーションの場づくりに関わっていけるようにしたいですね。1on1の実施目的を全社に共有し、前向きに取り組めるような組織にしていきたいです。
山田これからのマネージャーには、1on1できる能力が必須のものとなるでしょう。今後は事業部の中のマネージャーとメンバー間でも取り組んでいきたいです。事業や部署にあわせて柔軟にやり方を変えることが求められていくと思います。
本当の思いが伝えられず、「面談よりも、目の前の業務に時間を使いたい」となってしまいがちな1on1。そうならないためにも、目的の共有と入念な準備が必要だ。
SCOUTERの1on1は、メンバーの思いを引き出し、彼らの成長につなげるための工夫が随所に施されている。メンバーそれぞれに対して真剣に向き合う人事担当者と、彼らの成長を真剣に考える経営陣との協力があって初めて、「成長につながる1on1」となるだろう。
SCOUTERが利用している1on1フィードバックシステム「TeamUp」
こちらの記事は2018年12月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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3記事 | 最終更新 2018.12.17おすすめの関連記事
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